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「うわー、すげー」
我ながらバカみたいな声が出ていた。
光の球が空に飛んで消える。一瞬の静寂の後に大輪の華が白く光って咲く。終わりは緑色の尾引きながら夜に溶けた。
「たまやー!」
どこからか、そんな掛け声が聞こえてくる。
また空に花火が散った。空に浮かぶ煙を照らし火薬の匂いが漂う。
「たーまやー!」
隣から大きな掛け声が聞こえてきた。
見ると栄香さんは満面の笑みで空を見上げている。
ヒューッと音を立てながら白い光の球が上がった。あれを昇り竜というらしい。来る前に調べていた。昇り竜が上がり花火が光る前に一瞬、消えて静寂が来る。空はその時何もない夜空に戻った。その時をつまらない、なんて思わない。次の瞬間を待って期待して昂って。そして空が光る。
「「たーまやー!」」
栄香さんと声の調子もタイミングも全部ハモってお互いの顔を見あって笑った。
戯れるように栄香さんが俺の肩に頭を乗せる。柔らかい花のような香りがした。一瞬、俺は迷った。同じように頭を近づけたかったし、抱きしめたりもしたかった。でも近づいて離れる時を想像したのだ。
それでも、どうしてだろう。
俺は頭を栄香さんに添わした。髪のザラッとした感覚が頬にして更に栄香さんの香りが強くなる。
俺の心臓が激しく動き出す。
頬の下でフフッと小さく笑う栄香さんがいる。
「栄香さんもハメを外す時あるんですね」
「んー今日はね。特別」
また花火が空を照らす。
今度の花火は歪な形をしていた。歪んだ円に何本か光の線が飛んでいる。
「クラゲかな?」
「ですかね?」
次の花火もまた少し変わっていた。
「蝶?」
「あーですね」
お互い同じ物を見て話す。そう出来ることが嬉しかった。
やがて色物枠の花火は終わり、一発ずつだった花火は何発も同時に打ち出され重なりながらずっと空を彩った。放射状に放たれた白い光の球が空を一気に輝かせる。
歓声の中で誰かが言った。
「これで終わりかなー?」
終わりなのだろうか。
一発、白い光の球が上がっていく。次はもうないかもしれない、と目で追ってまた消えドンッと大輪の華を咲かせた。消えていく最後の一瞬まで見守る。また昇り竜が上がっていく。
これで終わりかも、と思うたび、その一発が愛おしい。
ーーでも花火大会はいつか必ず終わる。
この歓声も肌で感じる空気の振動もこの気持ちさえやがて終わる。
だったら躊躇っている暇は無かった。
レジャーシートの上で置かれていた栄香さんの手を上から握る。
終わる怖さよりこの一瞬の方がきっと大切で、その花火の輝きを見逃す方が後でずっと後悔するはずだ。
「待ってるから」
そんな囁きと共に栄香さんはレジャーシートに付いていた手を裏返し指を絡めて握った。
俺も同じように握り返す。
周りは次々に打ち出される花火を見上げている。家族、恋人、友人同士。持ってきたレジャーシートに集まったり、そのまま草むらに座り込んだり、そこには見ただけでは分からない関係もあるのだろう。
そんなそれぞれの隣り合った背中が花火に照らされてよく見えた。
何発も何発も、大きな花火が打ち出されていく。黄金色の花火が重なり合い、破裂する音も登っていく音も絶えず鳴る。もうフィナーレだ。
一瞬俺は隣を見た。長いまつ毛の下でジッと花火を眺める栄香さんがいる。
顔が花火に照らされている。
段々と胸が締め付けられ苦しくなった。どうやって呼吸していたかも忘れてしまう。
息をしたくて見上げた夜空は黄金色に輝いていた。俺の中で花火が散っているみたいだ。何か力強いものが俺の中で破裂して俺を染めていく。握った手が確かにそこにある事が俺の苦しさを紛らす。
ふと、顔が熱くなっているのがわかった。俺はちゃんと熱くなれるらしい。
それと同時にここまで見てきた中で一番大きな白い光の球が上がっていく。これで終わりかも、と目で追った。音を立てている。昇り竜だ。次々に上がっていく一回り小さな花火の中を駆け上がり、消える。
それは一瞬で小さな花火たちを飲み込んで視界を全てを輝く光の粒で埋め尽くした。
「たーまやー!!!」
栄香さんの頭から離れて俺は胸の中で暴れる熱量と共に吠えていた。
少し遅れて全身で音を感じ、その頃には辺り一面を覆った光も一つ一つの粒に変わりゆっくりと落ちていく。周りで拍手が起きた。
俺はジッと暗くなっていく夜空を見上げ続けた。煙が雲みたいに残って漂っている。
いそいそと立ち上がり帰路に着く人もいる中で俺の興奮はまだ覚めなかった。心臓はまだ激しく動いている。胸の上からでも分かりそうなほどの鼓動を感じる。
俺の中にこんな力があるなんて知らなかった。
「帰ろっか」
栄香さんから提案されて、ようやく俺は動き出した。
「たまやー!!」
栄香さんの頭から離れずに俺はそう叫んでいた。ビクッと栄香さんの肩が跳ねた後「お前何してんだ」みたいな顔で俺を睨んでいた。手がスルリと離れていく…みたいな事にならなくてよかったね。
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