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青夏、五円と花火  作者: 夏草枯々
第四章 最後の一発
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2

「そっそちらの方は?」


クラスメイトの一人が恐る恐るといった様子で俺に聞く。

俺は栄香さんの方を見る。栄香さんはクラスメイトの方を眺めていた。

自己紹介をしてくれるかと思ったけどそうでは無いらしい。改めて聞かれると困った。流石に一ヶ月前のような隣に座っているだけの知り合いのみたいな関係では無い。だけど名前がつくような劇的な変化も無かった気がする。お互い緩やかに近づいていった。そんな関係の名前を知らない。だから俺は仕方なく「仲の良い知り合いのお姉さん」と曖昧な表現にした。


「従兄弟のお姉さんとかじゃなく?」


「うん。血は繋がってない」


「あーそうなんだ」


クラスメイトは何かを察したように言葉を飲んだ。

ちょうどその時クラスメイトの隙間から隣の女子生徒と目が合った。その表情は険しく怒っているようにも見えたし悔しがっているようにも見えた。

俺は目を逸らす。

人と仲良くなるのはやはり難しい。簡単な事で嫌われてしまうようだ。

まぁ何となくは分かっていたけれど。楽な方に逃げた俺への罰だ。彼女に謝る機会が有れば一応しておこう。


「じゃあ楽しんで」


「お邪魔しましたー」


と、数名から声をかけられクラスメイト達は去って行った。

俺は手を振って見送る。


「同級生?」


栄香さんから聞かれて俺は「はい。同じクラスです」と答えた。


「そっちに行く?行ってきても良いよ?」


「え?なんでですか」


正直、その提案には驚いた。何で栄香さんを置いてクラスメイトの方に行くのだろう。


「高校生にとってクラスメイトって大切じゃない?」


「まぁそうですけど行きませんよ」


栄香さんは「へー」といつも通り呟く。その後シャクリとかき氷を食べ始める。俺も開けっぱなしになっていた焼きそばを啜って頬張った。美味い。味は濃いし油ぎっているけど、それが逆に良い。


「青くんはクラスメイトで気になってる子とかいないの?」


「え、いえ。いないです。何でですか?」


「何でって、まぁ」


珍しく栄香さんにしては歯切れの悪い喋り方だ。先ほどからかき氷のスプーンを氷に刺したり抜いたりを繰り返している。何が言いたいのだろう。


「青くんの事好きそうな子がいたから」


「あーまぁ別に。多分それ隣の席の子なんですけど、ただ隣に座っているだけの関係なんで」


彼女とはそれ以上でもそれ以下でもない。


「冷たっ」


「そもそもあんまり話したことないんですよ」


肩を竦める俺に栄香さんは「まー確かに私の時もいたな、そういう女子」と頷いた。

それで何かに納得してくれたらしく、俺はまた焼きそばを啜った。

それから休みの日程を聞いたり「暑いねー」「ジメッとしてます」なんて何でもない話をしながら買った物を食べていく。


「見て見て、赤い?」


そう言って栄香さんは小さく舌を出す。俺は「赤いです」と笑った。

そんな話をしているとアナウンスが入り、その後協賛を読み上げる。


「始まるね」


栄香さんが俺の方を見ながら言って俺も「はい」と頷き返す。


『それでは只今から花火大会を開演します』


周りから自然と拍手が起こり俺たちも合わせて手を叩いた。

花火は突然にやってきた。黄金色の華が夜空に咲く。眩しくて思わず目を細める。体の芯に音が響いた。ゆっくりと落ちていく細かな金色の粒が時々厨房から聞こえてくる油の激しく跳ねるような音を鳴らしていく。

辺りでは「わー」と歓声が上がり拍手が続く。こんなにも花火は凄いものだっただろうか。


「え、凄い!」


「はい。綺麗です」


「ね!」


話しているうちに二発目が打ち上がる。光の白い球が夜空を登りカッと河川敷を照らす。今度は赤い花火だ。


「おー」


隣から感心したような声が聞こえてくる。


「違いますね。やっぱり」


「何が?」


「作られた映像や短く切り取られた動画で見るのと生で見て肌で感じるのでは」


「そうだねー」


そんな話をしているうちに更に一発、二発と花火は打ち上がる。

俺はジッと夜空に浮かぶ花火を追った。

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