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青夏、五円と花火  作者: 夏草枯々
栄香夏の証言
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栄香夏の証言 1

「ねぇー夏」


私の目に偶然入った青くんは真剣な表情で腕を組んだまま周りの人達と話をしている。周りにいるのは友人達だろうか。私の知らない友人関係だ。もしかしたら登山サークルの仲間かもしれない。だとしたらみんなでどこかの山に登る相談だろうか。紅葉シーズンだし、ちょうど良さそうだけど山の上の方は少し寒そうだ。


「ねぇ夏!」


突然、腕を掴まれ体が跳ねた。友人が少し怒ったように茶色の眉を顰めて私を睨んでいる。

講義までの時間つぶしの為のランチ待ち合わせをしていた友人だ。


「な、なに?」


「なに見てんの?」


「何も見てないよ。ボーッとしてた」


「ふーん。で、どこいくの?」


「こことかどう?」


私はスマホであらかじめ選んでおいたカフェの公式サイトを見せた。


「へー知らない。初めていく、ここ。でも美味しそうだね」


彼女はあっさりとそう言ってスマホから目を離した。彼女の二歳差を感じさせないこの距離感が私には心地良い。入学してからしばらくして起きた人間関係のゴタゴタを生き延びた私の数少ない友人だ。


「どこで見つけたの?それ」


「リールで流れてきて行ってみたかったんだ」


「私のリールには流れてきてないよ」


軽口を叩く友人に私は小さく笑う。

そこから私のバイクに乗って目的のカフェに向かった。


そのカフェは開店前だというのにもう既に列が出来ていた。私たちもしばらく並んでからこぢんまりとしたウッド調の店内に通された。小さなテーブルに椅子が二つ。ゆったりとした椅子に座ると同時にスマホが揺れた。幸い友人は早速メニュー表に心奪われ私に興味を失っている。また怒らせるような事は避けられそうだ。


『おはよう!こないだの飲み会で一緒に飲んだんだけど覚えてる?』


アイコンと名前を見る。

誰だろう。と、いうかどこから私の連絡先を入手したんだろう。それにこないだの飲み会と言われてもあまり覚えていない。いつの話だろう。めんどくさ、と思いつつ人間関係、人間関係、仕事だ仕事と一応返事をしておく。こういう所、あまり昔の癖が抜けてないかもしれない。止めるべきだろうか。


『えーあんまり覚えてないな』


『結構酔ってたもんね笑笑』


「ね、夏はどれにする?」


友人に聞かれて私は顔を上げスマホをテーブルに伏せて置く。置いてからも振動は続く。いい加減鬱陶しくてサイレントにした。

私は頼むものが初めから決まっていたので「これにする」と答える。


「え、それだけ?」


「うん。ここ結構量多いよ?」


「でも、少なすぎでしょ。まぁいいけど。すいませーん」


店員さんに対応してもらった後「夏は自立してるよねー」と言われて首を傾げた。なん話だろう。


「そうかな?」


「彼氏と別れて三ヶ月、愚痴の一つも無いってすごいよ」


「まぁ悪い人じゃなかったし、性格的に相性が悪かったってだけで」


「ね?自立してる」


私は思わず笑っていた。それは誘導尋問みたいだ。


「してないよ。それに自立してる人は彼氏なんて作らないんじゃないの?」


「えー。でも確かにそんなイメージある!サバサバっていうか。あっサバサバっていえば夏も同じ講義取ってる子で…


それから結局、友人がサバサバ繋がりで思い出した子のサバサバじゃないエピソードで笑いあっているうちに頼んだものが届いた。

まずは写真を撮ってSNSに投稿する。

すぐに前から良いねが飛んできて私も返す。

一緒に飲んだ事があるらしい人からの最後のメッセージは『よかったら空いてる日一緒に飲みに行かない?』だった。後で断っておこう。

スマホの電源を落としたタイミングで通知が来て画面が光った。


『yagoshi_aoさんが貴方の投稿に「イイね」をしました』


その文字列だけで心臓が跳ねた。彼からの『イイね』は珍しい。そもそもSNSを開くのが稀みたいで本当に何気ないことか山に登った時だけにしか投稿自体無い。

そうしているうちにあっという間に大学の知り合いがくれたイイねに塗りつぶされる。

何が良かったのだろうか。何か心境の変化でもあったのだろうか…なんてそんな事を考えている私は全然自立していない。

スマホの電源を改めて落とす。顔を上げると目の前の友人が美味しそうに三段のスフレパンケーキを頬張っていた。


「一口ちょうだい?」


「結局食べたいんかい」


そう言いながらも友人は切り分けて口にくれた。

シロップの染み込んだパンケーキに硬めの生クリーム。美味しい、でも太りそうで怖い。


「で、夏は出来そうなの次の人」


次の人…私は「うーん」と唸り声を上げながら考える。


「難しそう」


「難しそう?」


友人はそう言ってから大きな口でパンケーキを頬張った。


「前の仕事の事を知っても大丈夫な人じゃ無いといけないから」


真面目な人ほど引きそうで好きな人に引かれるのは想像しただけで気分が落ちた。

前の彼氏は自分から仕事の事を知っていると言ってくれたから付き合った。結局、返ってこないお金がどんどん増えて喧嘩別れになったけれど前の仕事の事を知っていると言ってくれた時は少し安心した事を覚えている。


「もうごちゃごちゃ言ったらグーよグー」


友人は握り拳を掲げながら水を飲んだ。


「ありがとう」


「…おうよ」


友人は照れているのか耳を少し赤らめてまたパンケーキを頬張る。

結局そのままの勢いで食べたのは八割ほど。残りの方は「夏も食べてー」と言い出したので半分にして私も食べた。

それから順調に大学の講義を終えてバイトをしてから家に帰った。


「あっタクちゃんからだ」


髪を乾かしている最中、スマホが光った。見ると昔のお店からの知り合いであるタクちゃんからメッセージが来ている。


『SNS見たよ。お昼ドーナツだけで大丈夫?」


『うんーお腹減ったけどバイト先で食べたし大丈夫だったよー』


『そっか。もうすぐ誕生日だけど予定空いてるかな?僕の方は予定開けられそうだから良ければディナーでもと思ったんだけど』


『本当ですかー嬉しいー!ぜひー』


ふと文字を打っていてこういうのをパパ活というのだろうか、と思った。でも、タクちゃんと仲が良いのは本当だし好意を無碍にするのも心苦しい。彼氏がいた時は会っていないしそういう雰囲気になった事すらない。他人だけど私にとっては父親みたいな存在だ。もし私が誰かと結婚した時にはタクちゃんを呼ぶかもしれない。


「なんて言っても普通の子には伝わらないだろうな」


スマホを充電器に挿してから私もベットに寝転がる。まだやらなくてはいけない事が残っているけれど一旦私も充電だ。私は腕で光を遮って目を瞑った。

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