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青夏、五円と花火  作者: 夏草枯々
夜越青の証言
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夜越青の証言 2

「何言ってんだ兄貴。酔いすぎだ」


俺は水を飲んでから新しいコップに水を注いで兄貴のそばに置く。

それからまた椅子に座った。


「まぁダメ元だけどな」


兄貴は何やら苦笑いを浮かべている。


「大丈夫かよ。本当に疲れてんじゃねぇのか」


そう言ってサラミに手を伸ばす。


「疲れてるわけないだろ。休日なのに。良いから手紙かけって。あるだろなんか。年賀状の葉書とか」


「はいはい」と俺は本格的に口撃される前に立ち上がる。兄貴にはいつだって口論じゃ勝てない。

棚から便箋を探しつつ「書いてどうすんの」と聞いた。


「五年前に送る。タイムトラベルを使って」


俺は「おまじないか何か?」と便箋とペンを持って再び椅子に座った。

スピリチュアルな何かだろうか。兄貴がそんなものにハマるとは意外だった。


「近いな。神様に頼むんだよ」


「はぁ、新興宗教にでもハマったの?勘弁してくれよ兄貴」


「いーや違うって。俺以外誰も見つけてない世界の法則だ」


鼻で笑う。『誰も知らない世界の法則を俺だけが見つけた件』最近のアニメかよ。

ただそうはいっても兄貴がもう既にやる気だ。こうなるともう俺が何を言おうと聞かない。


「何書けば良い」


結局、仕方なく手紙を書くくらいは付き合ってやることにした。


「五年前の自分に頼むんだよ。助けてくれって。えーと、時計は…直接的には関係ないか。でも確かに何書けば良いんだろうな。五年前って栄香さんをそもそも知らないし」


「適当に頼んどくよ」


それからしばらく酔った頭で五年前の自分に助けを乞う文章を書いた。まぁ七夕の短冊みたいなものだろう。


『五年前の自分へ。どうか大人の自分と貴方を救ってあげてください。私は今にも心が張り裂けて叫び出しそうなほどに参っています。あの頃の自分では今の私の姿を想像できないかもしれません。でも、今はまるで背骨が抜かれたように体に力が入らない日々を過ごしているのです。どうか同じ自分ということで助けてほしい。そして同じ自分という事で助かってほしい』


兄貴はお嫁さんに連絡を入れた後、書いた俺の文を背後から覗き込んできた。

助けを乞うため若干オーバーに書いたので少し恥ずかしい。


「あー後、神社の鳥居で二拝二拍手一拝をした後、そこに手紙を置いて十円を賽銭箱に入れて下さいって最後に付け加えといて」


「どういう意味があるの」


「ついでに実験する」


「実験?」と口にする。そもそもこの十円も鳥居も訳がわからなかった。

まぁ深く考えたところで仕方ないか。これに願掛け以上の意味はない。

それから手紙を書き終え部屋の片付けをしていると家のチャイムが鳴った。

兄貴と並んで扉の方へと向かう。多分お迎えだ。


「ごめんよーつい話弾んで飲んじゃった。ここまで何できた?タクシー?大丈夫だった?」


兄貴がお嫁さんに手を合わせ頭を下げている。

黒いショートヘアのお嫁さんは「うん」と頷いた。何回か見たことがあるし家にもきたことがあるけれど、かなり寡黙な人だ。兄貴が言うには「誰よりも優しい」らしい。けれど俺から見た感じは物静かで真面目くらいの印象だ。ナッちゃんと話した時は笑っていたけど九割ナッちゃんが話していた。


「それで悪いんだけど一回時渡神社に寄ってくれない?その後もう一回ここに戻ってこいつ下ろして〜って感じ」


お嫁さんは無言で頷く。この二人には末永く仲良くしてほしい。

ーー俺と違って別れることなく。

部屋の電気を消してから最後にもう一度部屋を見渡す。やはり一人では広すぎる部屋だ。


「どうしたボーッとして。行くぞ」


それから夜の街を車に揺られながら眺めた。常夜灯や信号の光が次から次へと過ぎ去っていく。

どうやら俺はこれからタイムトラベルを使って未来の自分を救うらしい。

ナッちゃんへの土産話にはなんだかちょうど良さそうだと思えば少しやる気が出た。

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