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アイスコーヒーは翌日に。

作者: 星賀勇一郎





 こんなに走ったのは何時ぶりだろうか。

 俺はそんな事を考えながら古い空き家の中で肩で息をしている。

 煤けた窓ガラスの向こうを見ると制服警官が二人、すぐ横を通って行くのが見えた。


 畜生……。


 どこに向けていいか分からない怒りがまた込み上げてきた。


 どうしてこんな事になってしまったんだろう……。


 ジーパンの腹に挿してある拳銃を手に取ってじっと見つめた。






 昨日、バーで知り合った女といい感じになり、女の泊まるホテルに一緒に行った。

 そしてそこで飲み直す事になり、女の抜いたワインを何杯か飲んだ。

 ワインの味なんてわかりもしないのに調子に乗って飲んだワインがいけなかったのか、あるいはワインにクスリでも入れられたのか、眠ってしまった。

 

 せっかくその女とキメようと思っていたのに。


 朝、目が覚めると、俺は椅子に座ったまま寝ていた。

 少し酒の残る頭を振りながら、ベッドで寝ている女の横に潜り込もうとシーツを捲る。

 そこにはどこかで見た顔の男が眠っていた。

 そう、昨日の女ではなく、男。

 しかも眠っているのではなく、銃で撃たれて死んでいたのだった。

 俺はそれを見て警察に連絡しようと携帯電話を探した。

 ジーパンのケツのポケットにいつも入れている携帯電話を取ろうと手を背中に回すと、ジーパンの腰の辺りにゴツゴツした冷たいモノを感じた。

 それを手に取ると拳銃だった。

 日本警察が使用している「サクラ」だった。


 何でこんなモノが……。


 リボルバーの弾倉を見た。

 四発の黄金色の弾が入っている。

 一発使用されている。


 ベッドに横たわる男の背中を見た。

 心臓を至近距離から撃たれて死んでいる様だった。

 真っ赤に染まるシーツと苦痛の瞬間をフリーズさせたその男の顔を見た。

 やはりどこかで見た男の顔だった。


 女は何処に行った……。


 部屋中を探した。

 しかし女の痕跡は無く、昨日飲んだ筈のワインのボトルもミニボトルが並ぶカウンターに封が切られないまま寝かせてあった。


 とりあえず顔を洗い、テレビを付けた。

 ニュースが流れていて、何故か俺の顔写真が映っていた。


「昨夜未明、刃物を持ち交番を襲撃した吉川孝一容疑者は、持っていた刃物で勤務中の巡査、高橋良樹さん二十九歳の胸を刺し、拳銃を奪って逃走しました。高橋巡査は現在も意識不明の重体。吉川容疑者は現在も行方が分かっておらず、県警本部は百五十人体制で市内を中心に捜査中です」


 警官からこの銃を奪ったって言うのか……。


 俺はハンガーに掛けた上着を取ると、部屋のドアを開けて外を見た。


 誰もいない……。


 部屋を抜け出して、突き当りに見える非常階段の鉄のドアを開けた。


「こっちだ……」


 ドアを閉める瞬間にエレベーターを降りた男たちの声が聞こえた。

 多分警察だろうという事はわかり、一気に非常階段を駆け下りた。


 一体、どうなっているんだ。


 泣きそうになりながら、俺は飛び降りる様に階段を下りる。


 二階の高さから外に停まっていた車の上に飛び乗り、その駐車場を斜めに走り抜ける。


「いたぞ」


 ホテルの非常階段から男の声がした。

 そして次の瞬間、俺の足元で拳銃の弾が跳ねた。


 おいおい、発砲するのかよ……。


 俺は金網の隙間を抜けて街の中を走った。

 





 木を隠すなら森。

 俺は人混みの中を歩く。

 街角で座ってたむろしてた若い男に一万円札を渡して、スカジャンと帽子を買い、代わりに俺のジャケットをその若い男に渡した。


 人の多い場所を選んで歩く。

 その方が闇雲に発砲されることも無い。


 出入りの激しい立ち食いのラーメン屋に立ち寄り飯を食いながら天井から吊るされたテレビを見た。


「吉川容疑者は県会議員の池田秀和氏を警官から奪った拳銃で殺害し、今も逃走中です」


 そうか……。

 あの男、どこかで見たと思ったら県会議員か……。


 帽子のつばの陰からそのニュースを見た。

 ラーメン屋で飯を食っている間も、俺の後ろを制服警官が通る。

 派手なスカジャンと帽子で俺だとは思わない様子だった。


 しかし、誰が何のために俺をはめた……。


 ラーメン屋を出て、再び人の多い方へと足早に移動した。


 そのセンター街を抜けたところに信号待ちをしているタクシーを見つけた。

 俺は手を挙げて、そのタクシーに乗り込んだ。


「どちらまで……」


 運転手は俺の顔をルームミラーで見ながら訊く。


「西へ。高速に乗ってくれ……」


 そう言うとタクシーは走り出した。


「何か県会議員が殺されたみたいですね……。物騒ですな……」


 運転手は高速のゲートをくぐりながら世間話を始めた。


「そうみたいだね……。さっきラーメン屋のテレビで見てびっくりしたよ……」


 俺は運転手から顔が見えない位置にずれた。


 高速は渋滞していてなかなか進まない。


「次のインターで下りてくれ……」


 運転手に言って、財布から金を出した。


 インターを降りて、普通電車しか止まらない駅の前でタクシーを降りた。

 タクシーの運転手は記録を付けながら俺の顔を何度も見ている。


 慌てて切符を買うとホームに入って来た電車に乗った。

 車両の一番端に立って外を眺めていた。

 車両の中の乗客すべてが俺を見ている気がしてくる。


 俺は何もやっていないのに……。

 何故逃げてるんだ……。


 次の駅に到着すると、ホームに警官が二人立っていた。

 そして最後尾の車両に乗り込んだ様に見えた。

 俺は慌てて前の方の車両に移動した。

 そしてその次の駅で降りるとホームの端の金網を越えて、道路に出た。

 ごみごみした漁師町と古い洋館が立ち並ぶ。

 その狭い町の細い道を俺は歩いた。

 老婆が店先に座っている洋品店があり、俺はそこでサングラスを買った。


 喫茶店があり、その中を覗くと一人の老紳士がサイフォンでコーヒーを淹れていた。


 この店なら大丈夫か……。


 俺はその店に入った。


「いらっしゃい……」


 ベストを着た老紳士は俺をカウンターに招いた。

 カウンターに座ると、ポケットからタバコとライターを出してカウンターの上に置く。

 老紳士は俺の前にコーヒーの粉の入った灰皿と冷えた水を置いた。


「何に致しましょう……」


 目の前にあったメニューを手に取り、アイスコーヒーを注文した。


「夏場は水出しのアイスコーヒーを置いてるんですが、この時期はこうやってサイフォンで入れたコーヒーを冷やして出してるんですよ……。ちゃんとした店は夏と冬でアイスコーヒーの味が違うんです」


 老紳士はそう言う。

 そしてグラスに冷えたアイスコーヒーを注ぐと俺の前に出す。


「サイフォンで出したアイスコーヒーは、一晩寝かせておくと熟成されていい味になります。今、お客さんに出したアイスコーヒーは昨日の朝、淹れたモノです」


 老紳士はカウンターに手を突いてニッコリと微笑んだ。


「今年もまだ暑い日がありますからね……。結構アイスコーヒーが出るんですよね……」


 老紳士は一人で話しをしている。

 俺はその老紳士に頷いて、アイスコーヒーを飲んだ。


 確かに美味い……。


 老紳士はカウンターの中にある古びたステレオのスイッチを入れた。

 店の四方に付けられたスピーカーからキャロル・キングの曲が流れ始めた。


「キャロル・キング……。ご存じないですよね……」


 老紳士はそう言って、自分のグラスにもアイスコーヒーを注いだ。


「知ってますよ……。俺も古い曲が好きで……」


 カウンターの上のタバコを取り火をつけた。

 どれくらいぶりのタバコだろうか。

 少し頭がクラクラするのを感じる。


 老紳士は俺の前に立って自分もタバコに火をつけた。


「最近は禁煙の喫茶店も増えている。タバコとコーヒーってのは最高の相性じゃないかって思うんです」


 老紳士は俺に微笑むと煙を吐いた。

 その言葉に小さく何度か頷いた。


 店内を見た。

 他に客はおらず、内装もこだわりのある作りだった。


 老紳士は背中を向けて洗い物を始めた。

 タバコを消して、グラスに残ったアイスコーヒーを飲み干した。


「ご馳走様でした」


 カウンターに千円札を置く。


「今は出ない方が良い……」


 老紳士はそう言った。


「向かいの店に警官が入った」


 老紳士はそう言うと俺を振り返る。


「お客さん……。池田議員を殺した人だろう……」


 老紳士はそう言うとニッコリと笑った。


「いや、俺は……」


「こっちに来なさい……」


 老紳士はカウンターのドアを開けると俺を中に入る様に手招きした。

 言われるがままにカウンターに入り、その陰に隠れた。

 するとすぐに入り口のドアが開く音がした。


「マスター。変わった事はない」


 男の声が聞こえる。


「ああ、今、カレー屋のショウジが来て帰って行ったところだよ……」


 老紳士はカウンターの上に残っていたグラスを引いてシンクに置いた。


「どうしたんだい。今日はやけに慌ただしいみたいだけど」


「ああ、例の池田議員殺し……。この辺りにも犯人が来るんじゃないかってね……。こんな長閑な漁師町に来る訳ないのにね……本部も心配性で……」


 警官と思われる男と老紳士は声を出して笑った。


「とりあえず、逃げている犯人の顔写真、置いておくから。似た人見たら連絡して……」


 男はそう言うと出て行った。


「もう大丈夫だ……」


 老紳士はそう言って肩を叩いた。

 ゆっくりとカウンターから顔を出して周囲を確認した。


「お客さんは殺してない……」


 老紳士はグラスを拭きながら言う。


「もう一杯アイスコーヒーを淹れるよ……」


 グラスに氷を入れてアイスコーヒーを注ぐ。

 そしてカウンターに置いた。


 俺は椅子に座ってそのアイスコーヒーにストローを差して飲んだ。


「わかるんだよ……。その人が人を殺せる人間かどうか……」


 ゆっくりと顔を上げて老紳士を見た。


「お客さんには殺せない……。大方誰かにはめられたんだろう……」


 老紳士はまたタバコを咥えた。


「俺は殺してません……。起きたら池田議員が死んでて……女がいなくなってたんです」


 俺は胸の奥に沈殿していたモノを吐き出すように言った。


「本当なんです。池田議員が死んでて、俺は拳銃を……」


 老紳士はニッコリと笑って、俺の前にパウンドケーキを出した。

 キャロル・キングは流れ続ける。


「私が焼いたモノだ。口に合うかどうかわからんが……」


 俺は溢れ出しそうになる涙を堪えながら、そのパウンドケーキにフォークを入れた。

 そして無我夢中で食べた。


「池田秀和は敵の多い議員でね……。彼に死んで欲しいと思っている奴は沢山いる。その中の誰かが絵を描いたんだろう」


 老紳士は店の外をじっと見た。

 それにつられて振り返ると、店の外に女が立っていた。

 昨日俺とバーで会った女だった。


「見つけたわ……」


 女は店に入ると俺にそう言った。


「お前……」


 俺は女に掴みかかろうとした。

 女はその俺の手を振り払って大声で言う。


「私も知らなかったのよ」


 女が手に持っていたバッグが店の隅まで滑って行く。

 老紳士はカウンターから出て、女のバッグを拾うと埃を払った。


「とにかく座りなさい……」


 老紳士はそう言うと俺の横の椅子を引いて、女と俺を座らせた。

 老紳士は女の前にもアイスコーヒーを出した。

 女は老紳士に礼を言うと話し始めた。


「私はあのホテルにあなたを連れ込んで、睡眠薬で眠らせてって頼まれただけ。今朝、ニュースを見たら、警官から拳銃奪って、その拳銃で池田議員を殺した事になってて……。驚いたわよ……」


 女は俺の襟に手を掛ける。

 そしてそこに仕込んであった小さなGPSを剥がし、俺に見せた。


「これは私のアドリブ……。このおかげであなたを見つける事が出来たわ……」


 そのGPSを手に取った。

 そして水の入ったグラスに沈めた。


「誰に頼まれた……」


 女は首を横に振った。


「今は言えないわ……」


 女はアイスコーヒーを飲むとバッグからタバコを取り出した。


「でも安心して、必ずあなたの無実は証明するから……」


 黙ってその女を見た。

 間違いなく昨日の夜に俺がキメようと思っていた女だった。


「ねえ、携帯電話……まだ持ってる……」


 ポケットからスマホを取り出した。


「ああ、電源は切ってあるけどな……」


 俺はスマホの電源を入れようとした。

 それを女は止めた。


「電源を入れると確実に居場所がばれるわ……」


 女は俺のスマホを取り、自分のバッグの中から別のスマホを取り出した。


「さっき契約してきたばかりの携帯よ。これなら足はつかない」


 半信半疑でその最新型のスマホを手に取った。


「どうやってお前を信用しろって言うんだよ……」


 女を睨んだまま言う。

 女は頷く。


「確かにそうね。私なら信用できないもの……」


 女はタバコの煙が俺にかからない様に吐いた。


「お金は持ってる……」


 ケツのポケットから財布を出した。

 財布の中は既に一万円程になっていた。

 女はそれを見て、バッグの中から封筒を出した。


「これを持ってて……。もうしばらく逃げてもらわないと困るから……」


 女はそう言ってタバコを消した。


「おい……」


 俺の言葉も聞かずに女は立ち上がった。

 そしてカウンターの上に金を置く。


「その携帯電話に連絡するわ……。無事に全部終わったら……」


「終わったら……」


 女は微笑んだ。


「昨日の続き……しましょう……」


 そう言うと店を出て行った。


 俺は老紳士の顔を見た。


「あの女とやれるなら安いもんじゃないか……」


 老紳士はニヤリと笑って俺の肩を叩いた。






 老紳士の店を出て、その狭い町の路地を歩いた。

 迷路のようなその道をひたすら歩く。

 行く当てもない。

 今の俺はあの女の言う事を信じるしかなかった。


 女から受け取った三十万の金と携帯電話。

 そして四発の弾の入った拳銃。

 それで何処まで、何時まで逃げ切る事が出来るのだろうか……。


 その町を山の方へ抜けると大きなスーパーがあった。

 そのスーパーに商品を納入に来た他県ナンバーのトラックを見付け、その荷台に飛び乗って隠れた。


 途中で立ち寄ったサービスエリアで、また別のトラックの荷台に乗り換えた。


 スマホのナビを見ると、現在地が正確に分かる。

 どうやらトラックは高速を降りるようだった。

 荷台から降りる準備をしてトラックが停車するのを待った。

 どこかの駐車場にトラックをバックで停車した。

 その瞬間、トラックの幌を捲り、飛び降りた。

 長時間荷台で寝そべっていた事もあり、足がふらつくが、とりあえず傍に停まった車の陰に隠れ、隙を見てその場所を離れた。


 田舎町の寂れた商店街の食堂に入り、食事をした。

 周囲はすっかり暗くなっている。


 食堂のテレビではニュースが流れていた。

 まだ、俺を追っているというニュースが繰り返されていた。


 缶ビールと水、パンなどを田舎にしかないようなコンビニで買い、俺は海岸に引き上げられている漁船の中で眠った。


 何時間眠ったのかもわからなかった。

 体中が痛い。

 結局二本買った缶ビールも少し口を付けただけで殆ど飲む事もなかった。

 残った缶ビールはその漁船の操舵席のドリンクホルダーに置いてきた。


 昨日の夜行った、寂れた商店街に向かった。

 そして早朝から開いているうどん屋に入り、朝飯を食う。

 そしてその店を出てしばらく歩いていると、正面から二人の警官が歩いてくるのが見えた。

 サングラスをかけて俯いてその警官とすれ違う。

 警官は俺の事を見ている気がした。

 そう考えると体がムズムズしてくる。

 そして自然に足取りは早くなり、走り始めた。

 それに気付いたのか二人の警官が追って走って来た。

 路地から路地へと走り、海岸に近い、一軒の古びた空き家に転がる様に入った。






 今からでも遅くない。

 俺はやっていないという事を警察に行って話そう……。


 そう何度も考えた。

 誰かにはめられた。

 その証拠に俺には池田秀和を殺す動機が無い。

 交番を襲ったと言われる時間、あの女と一緒にいた。

 そうだ……。

 俺の無実は証明されるじゃないか……。


 ケツのポケットで携帯が震えている事に気付く。

 携帯を取り出すと画面には「麻里子」と表示があった。

 その空き家の壁にもたれたままその携帯に出た。


「私よ……」


 あの女の声だった。


「上手く逃げたわね……」


 何処にも向けようのない怒りをその女に向けようとしたが、言葉を飲み込んだ。


「もう少しよ……」


 女は静かにそう言った。


「もう少しの間、逃げ延びて……」


 俺は黙ったまま電話を切った。


 このまま逃げて、どうなるんだ……。


 俺はゆっくりと立ち上がった。


 空き家を出て、月明かりに照らされる路地を歩く。

 そしてトラックを下りたあの場所にやって来た。

 トラックには荷物が積んであり、その荷物に貼られたシールを見ると、東へ走る様だった。

 俺はその荷台にまた潜り込んだ。


 トラックが動き出す振動で目が覚めた。

 その幌の隙間から流れる風景を見た。

 そして高速に乗り、トラックは軽快に走り始めた。


 途中のサービスエリアにトラックは入る。

 その荷台を下りて、食堂に入った。

 朝も早いせいか、食堂のテーブルに伏せて眠る者もいた。

 眠っている男がテーブルの上に置いた車のキーを見付け、そっとポケットに入れた。

 そして駐車場に出るとキーに付いたボタンを押す。

 一台のライトバンがランプを点滅させた。

 その車に乗り込んで車をスタートさせた。


 高速の本線に入り、目いっぱいアクセルを踏んだ。

 何台の車を追い越したか分からない。


 俺は携帯電話を出して電話をかけた。






 議員会館。

 偉そうにバッジを付けた狸どもがここに事務所を持っている。

 池田議員が殺された事もあり、その周りにも警官が警備をしていた。

 俺はその向かいに車を停めた。


 ドアがノックされる。

 そこにはあの女、麻里子が立っていた。

 麻里子はドアを開けて車に乗って来た。


「待ってたよ……。行こうか……」


 俺は腰に挿した拳銃を抜いて、麻里子に向けた。

 麻里子は手を挙げて車を降りた。


 麻里子の頭に拳銃を突きつけ、議員会館へと向かう。


「どけ、下がれ……」


 そう大声で言いながら警備する警官を下がらせた。

 そのまま階段を上がって行く。

 そして三階まで上がると廊下を歩き、あるドアを蹴り破った。

 中には俺の親父、吉川永太郎が座っていた。


「孝一……」


 親父は驚いて立ち上がる。


「お前、何て事をしてくれたんだ……」


「うるせーよ。いいか親父……、黙って俺の質問に答えろ……」


 銃口を親父に向けた。

 親父は黙って頷く。


「親父と池田議員が失脚して一番得するのは誰だ」


 親父は不思議そうな顔をした。


「早く答えろ」


 親父はゆっくりと椅子に座った。


「それは河口勇次だろうな。今朝も辞職しろと言われたところだ……」


 麻里子がゆっくりとソファに座り脚を組んだ。


「よくそこに辿り着いたわね……」


 麻里子が淡々と言う。


「正解よ……。この事件、すべて河口議員が仕組んだ事……」


「河口の部屋は……」


 親父に訊いた。


「河口勇次の部屋は二階の二〇二号……」


 麻里子が答えた。

 それに親父は頷く。


 俺はまた麻里子に銃口を向けて、親父の部屋のドアを蹴り開けた。


「どけ、邪魔だ……」


 壁を背にしながら麻里子を連れて二階へと移動した。

 そして今度は河口の部屋のドアを蹴り開けた。


「な、なんだ……お前は、吉川の息子……」


 河口は慌てて机の上のモノを俺に向かって投げ始める。


 河口と一緒にいた秘書に外に出るように拳銃を振った。

 秘書は慌てて部屋の外に出た。


「お前だな……俺をはめたのは……」


「知らん……、な、何の事だ……」


 河口は部屋の中を逃げ回る。


 麻里子は親父の部屋で座ったのと同じ様にソファに座った。


「池田議員を殺して、ついでに親父を失脚させる。一石二鳥……。それで一番得をするのはあんただからな……」


 銃口は逃げる河口を追いかける。


「だから、私は知らん……」


 そう言い掛けた河口の言葉を麻里子が遮った。


「もう諦めたら……お父さん……」


 河口を睨んだ。

 麻里子も自分の父、河口を蔑むような目で見ていた。


「麻里子……。お前、裏切るのか……」


 河口は部屋の隅に崩れる様に座り込み、力なく項垂れた。


 ドアが開き、親父と刑事が入って来た。


「河口議員……署までご同行願いましょうか……」


 二人の刑事は河口の腕を掴む。

 もう一人の刑事は俺の持つ拳銃を掴んだ。


「お疲れ様でした……。河口警部補」


 刑事は麻里子に言うと出て行った。


 一体、どうなってるんだ……。






 目が覚めると麻里子の顔があった。


「ご飯出来てるわよ……。今日から出勤でしょ……議員秘書さん」


 俺は麻里子に微笑み、


「アイスコーヒーはちゃんと昨日淹れたやつだろうな……」


 そう言った。








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