絆創膏 37
「先生、お茶が冷める」
「宍倉さんは虫が苦手なんですよね。土入れてやらないと。ベランダ出ますね」
俺は昆虫ケースを持ってベランダの外に出た。
洗濯物が風で揺れている。とうぜん下着も干してあった。
それを見たからって変な気持ちが芽生えた訳じゃない。
ベランダの隅に置かれた腐葉土の袋とか。
空っぽのプランターとか。陽射しで変色した洗濯ばさみやロープとか。
下着よりもずっと、見てはいけないものを見てしまった感がある背徳に満ちた興奮。
しゃがんでケースを下に置く。
「土は隅に置いてある」
背後からかけられた声は近かった。宍倉さんの声は他と馴染みにくい。
だから低くても小さくても良く通る。
手を伸ばして腐葉土の袋を取る。
少しの間、宍倉さんの存在を忘れて一人になった。
他家にいるときの緊張感が薄れてた。
白い日光と風だけを感じながらシャベルで袋の中の土をすくう。
高さ十センチくらいまで盛ったところで幼虫を入れてやった。
半開きの窓から流れてくるマンゴー&ストロベリーティーの香り。
俺の日常ではレアなのに、自宅にいるかのように欠伸が出た。
「それで完了か?」
さっきと同じ位置からの声。ずっと窓際で俺の作業を見てたんだろうか。
マンゴー&ストロベリーティーの香りが近づいた。
ベランダ用のサンダルを引っかける宍倉さんの素足が目に入る。
俺の横に立つ。
「水をかけてあげた方がいいかもしれません」
「じゃあスプレーを」
「手を洗いたいので、ついでに水を入れてきます」
スプレーはベランダの隅に他の園芸用品と一緒に置かれてた。
いろいろと意外な一面が──
洗面所を借りて手を洗ってスプレーで土を湿らせてやっと終了した。
「先生、冷めてたら入れ直すけど」
横から白いティーカップが差し出された。
まだ湯気が薄く螺旋を描いてる。




