絆創膏 35
「なら座って。ワタルの面倒見てもらってマンションまで送って貰って、茶の一杯も出さずに帰すなんて、かえって非常識でしょ?」
言われてみれば。
「パパあ、虫のケース開かないよ」
と、ワタルくんの声で会話が切れた。
子どもが羨ましい。空気読まないから。
俺は必死に頑張っても読み違えてズレたまま、うすーくトークに参加して誤魔化してる。
飲み会や宴会は嫌い。いるんだかいないんだか分かんないならいなくてもいい。時間がもったいない。
本音は中学時代に置きっぱなしだ。
『言っても誰も信じない。信じたとしてもお前が誘ったって思うだけだし。ゲイと知られるのは嫌なんだろう?』
押し倒されて、抵抗して泣き顔を向けた俺に放った担任の一言。
だから本音も本当のことも受け入れてもらうのは諦めてきた。
怜央は違うと思ったら、担任と似たような人種だったし。
「ああ! ワタル! テーブルの上に置くなよ。先生のお茶の準備してるからちょっと待ってろ」
慌てる宍倉さんの声が、引き出したくない記憶の糸を切ってくれた。
「宍倉さん、俺がやりますよ。それより消毒して絆創膏貼らないと」
ローテーブルのガラス板の上でコロンとしてる幼虫をひょいっと摘まんで昆虫のケースにとりあえず入れる。
宍倉さんの嫌そうな顔。
「そうだ! 園芸用のだけど。わるい! 先生、お茶かコーヒー……」
「どっちでもいいですよ。救急セットはどこにありますか?」
救急ボックスはテレビ台の下段にあった。
「ちょっと痛いけど我慢してね」と、言いながらマキロンで洗うように消毒する。
「いたい」と、一瞬泣き声になるワタルくん。
でもオロナイン塗って絆創膏貼って手当が完了すると、あっという間に箱を逆さにしてレゴをぶちまけて遊び始めた。
俺の興奮と緊張もいつの間にか落ち着いてた。
救急ボックスを元の場所に戻すとフローリングに座ってふっと息を吐いた。




