絆創膏 34
「ともかく上がって」
家に上がる理由はないと思った。でも断るには凄い気合いが必要だと分かってた。
気合い──そう、気合い。
あっさり踏み越えてしまった。プライベートスペースというラインを。行きはヨイヨイ。帰りはどうする?NOというのが何より苦手だからな。
スニーカーを脱いでスリッパに足を入れる。
どうしよう。臭いが残ってしまったら。
今すぐ足の匂いをチェックして消臭スプレーを大量放射したい。
廊下の奥まで視線が伸びて玄関にまた戻る。
「やったあ! 姫せんせいがウチに来てくれた」と、ワタルくんがはしゃいで奥の部屋に走ってく。
初めて彼女の家にきた高校生。いや、初めて彼女の両親に会う男の心境並みに緊張してる。
これからも今までも経験ないだろうけど。
玄関上がって斜め少し奥に部屋があって、右にトイレ、トイレの隣が浴室で洗濯機が置いてあるのが見えた。
一番奥はリビングで、調度類が少なくて広々した中にオモチャのカラフルな色が散らばっていた。
キッチンはシンクとコンロが分かれてるL字型だった。
二人で立って分担して料理しやすいタイプだなって思って、ふと加奈子という、さっきの通話相手のことが気にかかる。
別れた奥さんだろうか。
考えても仕方ない。そうでもそうでなくっても。向こうから話してくれなきゃ、俺から聞く権利なんてないんだから。
「姫先生、そこに座って」
宍倉さんがキッチンに立ちながらグレーのローソファを差して言う。
陶器の音がカチャカチャ鳴ってる。
「俺はすぐに帰り……」
「コーヒーかお茶どっちがいい?」
「宍倉さん……」
「家に上がってもらってから直ぐに帰られたら、変な匂いでもしたのかって考えちゃいますよ」
「いや、そういうわけじゃ」




