出会い 3
うん、現況は不明だけど、距離が近づいたおかげで容姿の詳細は明らかになった。
俺の頭がちょうど胸の辺りってことは身長は一八〇cmは超えてそう。髪色は光に透けるとブルーに見える。鎖骨まで伸ばした長髪のツーブロで、刈上げ部分が見えるように後ろでたばねてる。刈上げのカラーはレッドブラウン。
なんかやりすぎだろ。バンドマンかモデル?美容師?
それよりも一七二cmしかない俺は男の影に完全に覆われてて、体格差だけでも十分怖い。
しかも上から鋭い眼光に射抜かれて視線をそらせない。猛獣からは目をそらさない方がいい。そらしたら襲われる。そんな雑学をどこで得たのか忘れたけど。意外な場面で実践する羽目になった。これから役に立つのかどうか。
「あ、あん……あ」
女が喘いでるような声が出た。よりによって今ここで。呼吸が乱れて高音になってしまった。
「アンタ! 女なのか?」
クールな強面男が目を丸く見開く。ちょっと驚いた表情。だみ声なのに意外にも鼻にかかったような甘いトーン。いきなり喋るからびっくりしたけど、年は二十五くらい?頭は混乱してるのに視力は現在を冷静にとらえてる。
男は俺の顔にかかる髪をひと房、小指ですくって、なんでか匂いを嗅ぐような仕草をした。
「違う! 違います!! 俺は男。男です!」
あわてて顔の前で両手をぶんぶん交差させて否定する。
今の状況では、怖いよりも甘いほうがずっと怖い。鋭い三白眼が和らいで潤んで見えるのは女と思ってるから?
やっと狙いが読めたぞ。女と勘違いしてわいせつ行為を働こうとしてるんだ。誤解を解かなきゃ。
ノンケの教師に押し倒されて男性不信になったゲイ。さらにノンケの変質者に女と間違われて犯されたゲイというややこしい経歴までプラスされるのは嫌だ。