絆創膏 24
「今日はたまたまです」
振り向いて思いの他距離が近くて顔が火照る。
「姫せんせい」
「え?」
とつぜん強い力で肩を引かれた。
重心が傾く。右の横顔が宍倉さんの体温に触れた。玲央みたいな香水じゃなくて宍倉さんだけの香りが鼻の奥まで抜ける。
「気を付けないとぶつかる」
自転車で走る人の背中が目の端に映り、慌てて体勢を直した。
「すいません」
頭を下げたら、ほどけたマフラーの端が前に垂れた。
宍倉さんにとっては息子の担任なのに。
頼りないとこばっか見られて軽蔑されてしまいそう。いや、とっくに軽く見られてるだろう。っていうか頼りがいないのがデフォだから辛い。
失態が自分だけの問題でも、積み重なると目撃した相手に逆らえない。
そんな弱気に支配される。
裸を見られてしまったときに似てるかも。
「ジェイボードは宍倉さんがやるんですか?」
並んで歩くうちにきゅんきゅん鳴く心臓の音が少し収まって、沈黙を埋める質問が浮かんだ。
「もちろん! こういうの、子供たちが公園でやってるの良く見かけるから、ワタルにも買ってあげた方がいいのかと思って買ったんだけどワタルにはまだ早くて」
「へえ……」
やっぱり宍倉さんがやるんだ。
納得したけどまた沈黙。
俺は浅草橋のシモジマに——
公園から立ち去る理由を口にしようとしたら、宍倉さんの手が俺のマフラーの端を掴んだ。
絆創膏の数が増えてる。どんな縫い方したら五本の指全部にケガできるんだろう。
「……」
ぽけっとしてるうちに無言で宍倉さんが俺の首にマフラーを巻き付ける。
今までの接触の中で一番気恥ずかしい。
ワタルくんじゃなくて俺が四歳児みたいだ。
巻き終わって端をほどけないように結ぶと、宍倉さんは安心したように微かに笑った。




