出会い 2
三階建ての新築に挟まれた古い平屋住宅。そのブロック塀から突き出した立派な松の下を通る。
金木犀のオレンジの花に近づくと、秋が強烈に香ってくる。
散歩中のポメラニアンが柴犬に向かって夢中で吠えたてていた。
デカイ柴犬の方が圧されて怯えてる。
次の角を右に折れた。保育園まであと五分くらい。
「うあ!」
ベージュ色の三階建てマンションの生け垣から白い毛玉が飛び出した。
あわてて両ブレーキを同時に握る。
キイイイと耳障りな音を引きずってチャリが止まった。急ブレーキは心臓に悪い。
毛玉の正体はたぶん猫。弾丸のように駆け抜けて道路の反対側に消えたから。
「ふう……焦った」
雲間から太陽がのぞいて、道に映る影が深くなった。
天気予報当たらないかも。折り畳みカサの分だけリュックが重く感じる。
緩んだマフラーを結び直し、気を取り直して右ペダルを踏み込む。
うう。うう。
「え? あれ?」
なんで?上半身前のめりにペダルに体重かけまくってるのに一歩も前進しない。本能でパッと後を振り向いた。
「ひい!!」
朝っぱらからホラーな声が奥歯の脇から洩れた。白い毛玉以上の衝撃に凍りつく。
だって逆光で黒く陰る、ぬうっと大きな男がチャリの荷台を掴んでるんだから。びっくりするに決まってる。驚くと本当にこういう声出るんだ。アニメだけじゃないんだ。心臓が口から飛び出すというのも比喩じゃないんだ。いやいや感心してる場合じゃない。
びっくりし過ぎてバンザイしたら、ハンドルがフリーになってチャリが傾いた。
「ぎゃあ!!」
自分で支えようとしたら男の腕が伸びて素早くハンドルを掴んで転倒を防ぐ。
チャリを跨いだまま胸の上で両手を重ねて半身後ろ向き。相手の両腕に包囲されて、ワイルドなデカイ男を下から見つめてる。
さっきよりも心臓がバクバクして顔が熱い。
二十二年生きてきた中で一番説明しがたい状況なんだけど。