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1+はんぶんこ✕2  作者: 春野わか
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出会い

 なんて爽快な朝だろう。

 カーテンをシャッと漫画みたいに勢いよく開けてみたら、太陽は厚い雲におおわれて、ぼんやり弱気だっとしても。

 テレビでお天気お姉さんが「今日は夜から雨が降りますので傘を持ってお出かけください」と、言っていたとしても。

 俺の心にはさんさんと輝く、もう一つの太陽が存在した。


「ああ……玲央」


 便器に腰かけため息。

 会いたいよ。だけど会うのがもったいないよ。玲央のおかげでトイレの古い壁紙までバラ色に見えるよ。ジャスティンの10,000 Hoursを鼻うたで口ずさむ。


 思い返せば、最低な教師のあとにもちょっとした出会いや誘いはあったんだけど。

 トラウマのせいで自分を守りすぎて上手くいかなかった。

 カラダを欲しがるのは自然な流れだし、一人の相手を決めずに遊ぶのも全然オッケーだとは思う。

 ただ、俺は寝る相手が欲しいんじゃなくて、安らげるパートナーが欲しいんだ。

 異性でも同性同士でも変わらないんじゃないかな。

 空いた心の穴を埋める、ハート型の純粋な愛を求めてる。

 やっと理想のパートナーに出会えたんだ。

 今日はどんな嫌味を言われてもきっと気にならない。

 トイレットペーパーをちぎって拭いてレバー下げて流して、歯を磨いて顔を洗う。

 天パ気味の髪をいつもよりも入念に整え、ユニクロのセーターを選んだ。

 シンプルにVネックの黒。税抜き2990円。

 極めつけに無難だからファッションというステージで加点されない代わりに減点もされないだろう。

 ドロシーの衣装を入れた紙袋をママチャリのカゴに乗せる。


「さみー」


 予報の気温よりも体感温度きびしい。グリーンにチェックのマフラーを顎まで引き上げる。手袋もってくれば良かった。

 先月はまだギリギリ暖かかったのにな。十一月に入って急に寒くなった。

 

「人のぬくもりが恋しいよ」


 こぼれた本音を両手ですくって息で温める。声にすると余計に切ない。でも今日は玲央のこと考えていれば心だけはあったかい。 


 明日のことはわからないけど。


 青空保育園はアパートからチャリで十五分くらいの場所にある。最寄りのJR山手線日暮里駅南口からなら三十分はかかる。

 朝の七時台だから日暮里駅の方に歩く人と多くすれ違う。

 制服姿の高校生の後ろを同じ方角に向かいペダルをこぐ俺は、どっかの高校生に見えているんだろうか。


 

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