玲央と亮輔 37
経費節約のために例年の運動会や学芸会で使用した材料や衣装を使い回してる。
だから希望は薄いけど聞いてみた。
「あれだけしかありませんよ。五人分くらいしかなかったので、使いきれるからちょうどいいと思ったんですから」
やっぱり。がっくり膝が折れそうになる。
「まさかワタルくんがドロシー役をやりたいと言い出したんですか?」
変な疑いを持たれるどころか、漆原先生にしては珍しく楽しそうな口調で返ってきた。
「いや、それはさすがに……破れてしまったとか、汚れてしまったとか。あってはならないことですけど、もしそういう事故があったら、と思ってうかがっただけです」
冷静なふりがツラい。
「もし、そうなったら? どっかで材料買ってくるしかないですね。もちろん自費で」
漆原先生が淡々と告げた。
滲む疑惑で視線が冷たい。
彼女の瞳の奥から生じる冷気で震えがきた。
「あ、そうですよね。ただ自費で他の材料で間に合わせるっていう手があるんだなあって安心しました」
「そんなことにならないように、ちゃんと管理して下さいね」
氷の刃が胸に突き立てられた。
やめよう。これ以上食い下がれば目で殺されてしまう。
「ええ。それはもちろん。せ、世界に一つだけの衣装ですから。大事に管理してますよ」
「一つだけじゃなくて五着もありますけどね」
無言でうなづく。
漆原先生からは、それ以上追及されることはなかった。
けど、時間が経つにつれて気分が沈みこんでいく。
「ああ、俺はなんてダメな人間なんだ」と、溜め息。
「姫せんせーい。元気ない?」
「お熱あるの? お注射は右でいいですか?」
小さな呟きを数名の子どもたちに聞かれてしまった。
「あ、すみません。じゃあ右で」
とつぜん始まるお医者さんごっこ。
「はい。お袖まくって下さいね。ちゅー」
「ありがとうございます。元気になりました」
「お薬は三日分出しておきますね」
可愛い。ぴゅあは最高の治療薬だ。
ワタルくんの言葉を借りれば俺は半分こになってしまうな。
幼い子どもに心配されるなんて。
そういえば、宍倉さんは運命の出会いというのを、どういう意味で使ったんだろう。
運命に出会いをくっつけると、恋人同士をまっさきに連想する。
だけど子持ちなんだからゲイとは考えにくい。
例えばバイセクシャルにしても完全な偽装にしても、バレて離婚なら親権を宍倉さんが持つというのも。
うーん。互いに五分なら母親が有利だろうし。
運命の親友との出会い?とでも言いたいのかな。
少なくとも、恋人同士の運命の出会いだけは絶対にあり得ない。




