玲央と亮輔 36
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「他の役に誘導できたでしょうに。オズの役だったら家庭にある洋服を衣装に使えて園側で作るものは何もなくて済むのに。もう一つライオン帽子作らないとならなくなりましたね」
ライオンをやりたいというワタルくんの要望を伝えたら、漆原先生は呆れたように首を振った。
「あ……」
とたんに思い出した玲央のこと。サッと血の気がひく。
「青ざめることですか? うまく説得すれば子どもの気持ちはすぐに変わりますよ。まだ学芸会まで時間はありますから、そんなに大変だと思うなら……」
「いや……あと一つくらい作るのはどうってことないです」
「まあ、そうですよね? だってドロシーの衣装はもうできてるんだし」
今ごろ気づくなんて。
大事な大事な衣装。間違いなく一番マズイ場所に忘れてきた。
ホントにバカだ。
同性同士で入ったラブホの部屋に置き忘れるなんて。
仕事終わってから問い合わせるしかない。
今日もソワソワする午後を迎えてしまった。落ち着かない。
玲央の声と言葉が脳内でリピートされる。
『俺は子どもが大嫌いだから』
「保育士前にして子ども大嫌いって発言は相当だよな」
そんな人間が。
しかも、センス良くて都会の夜が似合う玲央が。
俺みたいのに突き飛ばされて全裸でひっくり返り、屈辱に震えて夜を過ごし。
ホテルから自宅へは恐らく始発で。
かさばるドロシーの五着の衣装を持って帰る姿が。
「全く想像できない」
なら、憎い俺を衣装に重ねてビリビリに引き裂き、ゴミとして捨てる。これは、かなり現実的な予想。
それとも。
衣装なんて興味なし。
忘れてチェックアウト。清掃係が回収して保管。
そうであって欲しい楽観的な予想。
だけど、楽観的な予想でない場合はどうしたらいいんだ。
「漆原せんせい。すみません。例えばドロシーの衣装に使うカラーのビニールって余ってたりしませんか?」




