玲央と亮輔 34
「僕は臆病なライオンがいいです」
ワタルくんに聞いてみたら即答で、ちょうどぬり絵のライオンの色を塗ってるとこだった。
「オズの魔法使い知ってるんだね」
「うん、アニメで見たし、パパが絵本読んでくれたから」
「ふふ、パパは強そうなライオンみたいだよね」
宍倉さんが子どもと一緒にアニメを見たり、絵本を読んであげてる姿が想像できない。
「うーん。でもね。パパは弱いよ」
ワタルくんが青と赤のクレヨンでライオンのたてがみを塗っていく。
「え? 弱くは見えないけどな」
あのマイカちゃんママを撃退してたし。
「だって自分で弱いって言ってるよ」
「へえ、どういうとこが弱いと思ってるんだろう?」
四歳のワタルくんと宍倉さんの会話。
あんなに強そうなのに息子の前では弱いと言ってんのか。意外。
父親なら強く見せたがるのが普通だろうに。
すごく興味ある。
「僕にも良く分かんないよ。パパは大きくて強そうだし。でも、オズの魔法使いのライオンは、見た目はライオンなのに中身は弱いんだよね。だから強くなりたいと思ってるんでしょ?」
「ああ、そうだね。世の中には力が強い人。心が強い人。両方強い人といるね」
でも宍倉さんは両方強いように見えるよ。
と、思ったけどワタルくんに言ったら混乱してしまうだろう。
強さや優しさ、賢さの尺度は難しい。
ワタルくんはぬり絵に飽きると今度は折り紙を始めた。
紙飛行機を折る手元を見つめるうちに、昨日の出来事を巻き戻していた。
特に駅から自宅までを辿る。
宍倉さんに言われたこともリピートされる。
よりによって担当してる園児の保護者に見られた。
あの時間、あの道を通る必要があったんだろうか。
別の道でも帰れたんだ。公園の側を過ぎるのが、後、数分遅いか早いかすれば。みっともないとこ見られずにすんだのに。
過去は記憶のように巻き戻せない。




