玲央と亮輔 29
「先生が聞いたんだろ。何とお呼びすればいいかって。だから俺は答えただけだ」
まさかの反論。
宍倉さんの瞳の色が陰る。気のせいじゃない。長い睫毛が下りて影を作ってるんだ。
いくら俺に聞かれたからって宍倉さんの返答は明らかに変なんだけど。
叱られた子どもみたいな表情にきゅんとなる。
「まだ、今日でお会いするの二回目なので。そのうち呼べるようになるかもしれません」
何言ってるんだろう。会うのが三回目でも四回目でも。これから毎日会ったって。リョーって呼ぶことは絶対あり得ないのに。
チラッと目線を上にあげる。少し嬉しそう。猛獣になつかれてる?
調子が狂って頬が火照ってきた。
「ともかく朝のお仕度の流れ教えますね。ここにワタルくんのお名前をシールで貼ってあります」
廊下の壁にズラリとフックが並んでる。
これ以上ペースを乱されたくない。仕事モードに切り替えないと。
宍倉さんから目線を外して気持ちを落ち着かせる。
「おお、このフックに上履き入れや、汚れ物入れを掛けるんだな」
「はい」
昨日、道で単体で会ったときは父親っぽさは皆無だったけど。
今は普通の父親らしい顔になってる。
ワタルくんとは顔もソックリで、こういう面をもっと見れたら印象変わるのかもな。
ちょっと心がほっこりして頬が緩んだ。気づいてあわてて口角を下げる。
「はい、その通りです。教室の中にもロッカーがあって。クレヨンや粘土や制作したものを置いたり、下着も含めた着替え。後は箱入りのビニール袋など、プリントに書いてあるものを補充またはセットしてください」
わざと固めな雰囲気で説明を続ける。
だんだん宍倉さんの対応に慣れてきた。
保育士と保護者の距離感が保ててホッとしたら、目の前にプリントが突き出された。




