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1+はんぶんこ✕2  作者: 春野わか
33/199

玲央と亮輔 9

 酔ってるせいもあるのか。力が抜けたらソファにズブズブ沈んでしまった。


「アイツ、気を付けた方がいいよ」


 さっきの店員が空いたグラスやプレートを片付けにきて、またボソっと呟いた。


「気を付けるって?」

「だって君は真面目そうだから。遊んでそうなやつなら言わないけど。アイツ、自分は遊んでるくせに、経験ないようなのが大好物なんだよ。だからモメたりする」


「あ……」


 怜央が戻ってきた。

 俺の反応で気付いた店員は、振り返らずにトレーを持ってテーブルから離れた。


「俺に未練あんのかよ」


 勘を働かせた怜央が店員の背中に目線を送る。空気だけでバレてる。


「未練?」

「前にちょっとだけ関係したから」


 そっか。そういうことかと納得。正直に言ってくれた方が嬉しい。


「それより、顔赤いな。もう店、出よっか」


「うん」


 ここにいて、これ以上何を話せばいいか分からなくなってきた。チャットなら違ったのかな。

 

 聞きたいことも聞けてない。

 どんな仕事してる?どこに住んでる?

 一本の傘の下、体は寄り添いながら、気持ちの一部が離脱してふわふわと浮いてる。

 頭の隅から細い糸が伸びて、その先に幽体クラゲみたいな透明なものがくっついてる感じ。


「遅刻した俺が払うよ」

「いいよ。今度で。美味しかった?」

「美味しかったよ。でも全部払ってもらうのは悪いよ……」

「悪くない。俺も美味しかった」

「だけど……」


 嗅覚は雨の匂い(ペトリコール)を強くとらえた。玲央の香水よりも強い。傘を叩く雨音が強くなってきた。


「すっごく美味しかったから。青葉のがね……」


 玲央の指が俺の唇をなぞる。

 心臓が跳ねて幽体クラゲも揺れる。酔って浮わついててよかった。そうでないと——

 

 怜央の形のいい唇の隙間でピンク色の舌がチロリとうねる。道端での激しいキスの味。忘れられるわけがない。

 初めてのキスだから。


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