玲央と亮輔 9
酔ってるせいもあるのか。力が抜けたらソファにズブズブ沈んでしまった。
「アイツ、気を付けた方がいいよ」
さっきの店員が空いたグラスやプレートを片付けにきて、またボソっと呟いた。
「気を付けるって?」
「だって君は真面目そうだから。遊んでそうなやつなら言わないけど。アイツ、自分は遊んでるくせに、経験ないようなのが大好物なんだよ。だからモメたりする」
「あ……」
怜央が戻ってきた。
俺の反応で気付いた店員は、振り返らずにトレーを持ってテーブルから離れた。
「俺に未練あんのかよ」
勘を働かせた怜央が店員の背中に目線を送る。空気だけでバレてる。
「未練?」
「前にちょっとだけ関係したから」
そっか。そういうことかと納得。正直に言ってくれた方が嬉しい。
「それより、顔赤いな。もう店、出よっか」
「うん」
ここにいて、これ以上何を話せばいいか分からなくなってきた。チャットなら違ったのかな。
聞きたいことも聞けてない。
どんな仕事してる?どこに住んでる?
一本の傘の下、体は寄り添いながら、気持ちの一部が離脱してふわふわと浮いてる。
頭の隅から細い糸が伸びて、その先に幽体クラゲみたいな透明なものがくっついてる感じ。
「遅刻した俺が払うよ」
「いいよ。今度で。美味しかった?」
「美味しかったよ。でも全部払ってもらうのは悪いよ……」
「悪くない。俺も美味しかった」
「だけど……」
嗅覚は雨の匂いを強くとらえた。玲央の香水よりも強い。傘を叩く雨音が強くなってきた。
「すっごく美味しかったから。青葉のがね……」
玲央の指が俺の唇をなぞる。
心臓が跳ねて幽体クラゲも揺れる。酔って浮わついててよかった。そうでないと——
怜央の形のいい唇の隙間でピンク色の舌がチロリとうねる。道端での激しいキスの味。忘れられるわけがない。
初めてのキスだから。




