玲央と亮輔 5
そのとき、ポツっと雨が落ちてきた。そういえば予報では雨。
「店はもうすぐなんだ。雨降ってきたな。行こう。座ってゆっくり話そうよ」
長い右腕が俺の腰をがっちりロックする。
すごく強引で、甘い声とのギャップに揺れる。
やっと出会えたんだ。俺の傷を癒してくれる人と。弱さを受け止めてくれる人と。
だから、この人の腕から逃げたらダメだ。
「着いたよ」
何の店か分からないのに、派手な看板を掲げる店が並ぶ細い通りにいた。
少し先に目をやると、色鮮やかなネオンがダブって視界が霞んだ。
「ふっふ……そっちじゃないよ。青葉が良ければあっちにいってもいいけど。もう、そういう気分?」
「違う……」
顔が赤いのが自分でも分かる。マフラーに顔を埋めるようにしてラブホのネオンから視線を剥がした。
この年になってこういうとこ来るのも初めてで。利用したこともないなんて。
「腹減ってるよね?」
玲央が雑居ビルの二階にある喫茶店のような木製のドアを押した。
店内がすごく青かった。
照明が深い海を演出してる。
観葉植物が海藻みたいだ。
美しくて妖しい。暗く青い照明に白い光が点々と水玉のように天井や床を移動してる。
ブルーハワイに浮かぶ氷のように、もう酔ってる気分。
骨を抜かれてクラゲになって、幻想世界をゆらゆら泳いでる。
ぼうっとしてたら怜央が俺のジャケットを脱がして、ハンガーに掛けてくれてた。
「ありがと……」
礼を言いながら振り返り、コートを脱いだ玲央を見たとたん現実に戻され顔が固まる。
「おお! おそろいじゃん」
玲央が面白そうに笑う。おそろいというのは二人とも黒のVネックのセーターだったから。
シンプルな形だからセンスのなさをカバーできると思ったのに。
シンプルな形の黒だからこそ、照明の下で質の違いがはっきり分かる。
青の照明で良かった。白色だったら逃げ出したくなるかも。
たぶん、玲央と俺の服とでは値段が一桁違う。




