出会い 16
やっとつかみかけた幸せが幻になりかけたとき、電話が鳴った。
ワンコールで通話ボタンを押す。
「熊沢あきとの母です……」
期待していた通りアキトくんのママからだった。
「すみません……会社は出たんですけど。トラブルがあったみたいで、人が溢れて改札にも入れない状況で」
架かってきたと思ったら。
地面が割れて奈落の底に落ちていくように目の前が真っ暗になった。
このままだと閉園時間にさえ間に合わないかも。玲央——
「お父さんに連絡しても大丈夫ですか?」
考えは散々バラバラなのに声だけは冷静だった。
「すみません。主人は今、大阪に出張に行っていて、私しかお迎えは無理なんです」
ああ、ダメだ。とどめを刺された。
「状況は分かりました。熱は高いですがアキトくんの嘔吐はおさまってます。ちょっとぐったりしてますけど水分も取れているので。そちらの状況をまたお知らせください」
仕方がない。せめて玲央に、遅刻すると連絡を。
「アキトくんち、電車が止まってるみたいです」
漆原先生に状況を伝える。
「仕方ないですね。こんな状況では担任として帰るわけにはいきませんから。迎えがくるまで待ちましょう」
アキトくんは事務室に置かれているベッドの上で眠っていた。
迎えにくるころには病院は閉まっているだろう。かわいそうに。
額に手を当てる。残念ながらまだ熱かったけど、吐き気もおさまったみたいで症状が他にないのが幸いだった。
「お手洗いに行ってきます」
生理現象なんだ。俺がトイレに行くたびに怪しまれたりしないだろう。
トイレはウソじゃないんだから。ついでに玲央に連絡を。
廊下を小走りに。ロッカー室のドアを開ける。
「あ、姫先生。アキトくんの具合どうですかあ? 遅い時間に大変ですよね」
うわあ。よりによって花城先生。声が高くてデカくて響くよ。廊下まで。素早く静かにドアを閉める。
「花城先生、まだいたんですか?」
声のトーンが不機嫌に淀む。リュックから素早くスマホを取り出してデニムのポケットに押し込んだ。




