会いたい 2
【ねえ、タクミは初めてじゃないよね?】
レオの問い。そういう意味にしか取れなくて。頬がかっと熱くなる。
【ううん、初めてだよ。前に打ち明けた中学の先生とは未遂で終わったから。それいらい俺は……】
ムキになって否定する。レオにだけは誤解されたくない。でも二十二歳で未経験は自慢にもならない。
【ごめん。そういう意味じゃなかった。ツライこと思い出させちゃってホントにごめん。SNSで知り合った男と会ったことある? って意味なんだけど】
対面でなくて良かった。汗ばんでる。ヤル気満々と誤解される勘違い。実際に会うとなったらそういうのも含めてオッケーってことになるにしても。そこまでストレートじゃなかった。
耳元で囁かれてるような。セクシーな声を想像する。色は黒。字体は明朝系で味気ないのに。文章の甘さに揺れてしまう。
俺は中学三年の時、慕っていた先生に同性が好きとカミングアウトしたら無理やりヤラれそうになった。
ずっと悩んできた。男好きの男嫌いという矛盾に。
経験あろうとなかろうと俺はゲイだ。先生のことは好きだった。
でも怖くて、何か違うと思って抵抗した。そしたら「は? 何で? お前、男が好きなんだろ?」って吐かれて捨てられた。
そこからゲイ男子による男性不信という難解なトラウマにはまってしまってーー
いまだに未経験。哀れピュアなゲイ。ゲイの童貞野郎。
同性愛者ってだけでアイデンティティ揺らぎがちなのに、俺の場合は地盤沈下で足首まで埋まってる。恋愛対象がいてセックスしてこそゲイというIDは強固になる。
生に根付いてるノンケとは違うんだ。生よりも性だ。男性不信におちいっても対象が異性にチェンジするわけじゃない。
先生のこと好きだった。同性が好きなのに拒むのは変なんだろうか。レオに話したら「変じゃない。純粋なんだよ。まだ、その気になれなかっただけだろ」って言ってもらえた。