出会い 10
名前と連絡帳を確認して、あざらしの絵が描かれた教室プレートのクラスに移動する。
「ドロシーのワンピース?」
LINE既読にならなかったのをまだ怒ってるのか。
遊びやすいようにテーブルを動かしていたら、蒸し返すような発言が。
嵐は過ぎたと油断してた。漆原先生の厳しい視線に気づかないふりで体を動かす。ノルマをこなして文句を言われる筋合いはないんだけど。
三人の子供たちをあしらいながら、黙って衣装の入った紙袋を漆原先生に手渡した。
「はい、ドロシーのは全部できました。ライオンと木こりや、かかしはまだですけど」
あらためて役名を連ねるとかなりの負担だ。さらに魔女やオズの分も作らなきゃならないし。
漆原先生が手を袋に入れてワンピースを一着取り出す。両手で広げて目の高さでしげしげと眺めてる。我ながら納得のできばえ。ケチつけられるような抜けはないはず。
「これ……何ですか?」
これ、と、漆原先生が指でつまんだのはワンピースの腰に足した布のリボンだった。
ハギレとはいえ自費で。
「その……ビニールだけだとワンピースに見えないし可愛くないかなあと。ちょうど家にハギレがあったので足してみました。ついでに髪飾りも……」
目線がどんどん床に落ちて、線香の煙のように語尾がか細く消えていく。
「こういう余計なことをするとトラブルをまねくんですよ」
漆原先生が「余計なこと」が大嫌いなのは分かってた。
でもハギレを足したくらいで。おおげさな。
「わあ!! かわいい!」
「これドロシーの? 先生が作ったの? じょうずー」
ユリちゃんとスズちゃんが漆原先生の手にある衣装を見て歓声をあげた。
髪につけるリボンを紙袋の中に見つけて、もっとはしゃぐ。良かった。やっぱり喜んでくれてる。
漆原先生の表情をチラ見すると予想どおり眉間にシワが寄っていた。
「ともかく余計なことはやらない、言わない」
漆原先生の発言が響かない理由がわかる。要は自分のプランに手を加えられたのが嫌なんだ。その本音を隠して職務を盾に上に立とうとするから共感できないんだ。




