出会い 5
チュンチュン ブロロロロロオ チリリリリ
あれ?スズメの声とエンジン音、他生活音のリズムが戻ってる。
平和な朝の日常を奏でる音が、ひたすら耳に入ってくるばかり。
瞼は閉じたまま。耳の意識が唇に移動しても、なにも触れてる感じがない。
指で唇をなぞってみる。メンソレータムのベタつきだけがそこにあった。
「これ、アンタのだろ」
ドライな低音が顔の上に落とされた。
「……え?」
一ミリずつ瞼を開く。細い隙間から光が侵入してきた。眩しい。夢じゃなかった。だって、全開しても強面の顔は変わらず上にあったから。
「これ! アンタのだろ?」
男の口調が強まって、そうとう間抜けであろう俺の顔の前に紙袋が突き出された。
目力が戻ってる。メンチ切るってこういう感じなんだろうな。抵抗したら刺されそうな怖さ。
「え! あっっ」
一瞬ほうけて、やっと理解した。男の真の目的に。紙袋にはドロシーの衣装が入ってる。俺にとっては大事な大事な大事な物。
「それ、俺のです。すみません……」
落とし物を拾ってもらった以上の申し訳なさが数倍の重さでのしかかる。
だっていろいろホントに申し訳ない。脳内でぐるぐるしてた誤解をぶちまけたら、きっと殴られてリセットされるだろうけど。
紙袋を受け取ると、男は握っていたチャリのハンドルを俺に渡してきた。
「ありがとうございます」
罪悪感と謝罪を瞳にこめて、会釈してから前を向いた。
こぎ出す前に、もう一度振り返る。
背中ごしにチラッと視線を投げると、マンションの中に入って行ってしまった。
上下スエット。今日は仕事休みなのかな。見た目は怖いけど落とし物を拾ってくれたんだ。
誤解されるような外見に言動なんだもん。もう少し早く用件言ってくれればいいのに。でも違う場面で会ったらやっぱり怖い人なのかも。夜の繁華街が似合いそう。首にはゴールドのぶっといチェーンとか。
もう一度会うことあるのかな。マンションは出勤途中にあるから、タイミング合えばそうなるかもしれないけど。
でも、保育園へ行く道は他にもある。だから会わないようにもできる。
俺、なに考えてるんだろう。




