LEO 4
「何で謝るんですか? 姫先生がヒロキくんを着替えさせてるのに、私は何もしなくて良いとでも?」
漆原先生が立ち上がって俺を見据えた。
「いえ……その、ありがとうございます、と同じような意味で使っただけです」
叱られてるわけじゃないのは分かってる。
漆原先生の黒目は揺らぎなく、悪意は全く感じられなかった。
だけど退いてしまう自分がいる。
「ああ、姫先生は典型的な日本人ですね。私も日本人ですけど」
「すみません」
「ほら、また謝ってる。謙虚なのはいいんですけどね」
漆原先生が笑った。眉間に皺が寄ったまま。
彫刻みたいに深く刻まれて永久に伸びないのかもしれない。
すみませんと、また言いそうになって肺でとどめた。
すぐに謝る癖を直さないと。
「それより──」
漆原先生が話題を切り替える。
「今日はらっこ組のリトミックがなくなったので、午前中にホールが使えることになったんですよ」
ああ、園庭で園長先生と話してたのはそれかな。
「じゃあ、発表会の」
「そうです。ひつじ組さんと合同での見せ合いっこ出来ますねと、江口先生にも話しました」
江口先生は花城先生とひつじ組を担当している。
「でも突然で、何の準備も」
「来週は本番も近づいてきているので、衣装も着て全部通してみたいですけど、今日はセリフと場面の確認だけにしておきましょう」
「来週……」
冒頭の言葉に激しく動揺した。
「何か問題でも? ドロシーの衣装は出来てますし、他の役の衣装も平行して作ってるんですから来週で間に合いますよね?」
いつもは無駄に勘が働くくせに、怪しんでる様子は無かった。
ロックバンドのドラムじみた俺の鼓動が聞こえてないのが幸いだ。




