絆創膏 42
俺はワタルくんの姿を求めた。
ワタルくんは列車を手動で走らせて遊んでいた。
俺と宍倉さんのエンドレスな言い合いに飽きて耳にも目にも入らない様子だった。
しかも線路の上じゃなくてブロックの上でガタゴト動かしてる。
子どもは自由だ。興味が雲のようにすぐ他に流れる。雑音を遮断して自分の世界に入ってしまえる。大人には真似できない。
「もう帰ります」
息のように自然に溢れた。
いつも、こんな風にきっぱり言えたらいいのに。
宍倉さんが慌てて壁から手を離す。
俺を止めてた遮断桿は上がった。
無言で玄関まで進む。
宍倉さんも口をつぐんでいる。
スニーカーを履いて顔も向けず「お邪魔しました」と外に出た。
後ろで静かにドアが開かれる気配があった。
慌てる俺の前にエレベーターがすぐに上がってきて、宍倉さんから逃げるように箱に飛び乗った。
けっきょく浅草橋のシモジマには行かず、生地屋のトマトに足が向いていた。
「裁縫は俺の趣味なんだよ」
小さいころから女子が好みがちなカラフルで細かいモノづくりが好きだった。だから言い訳なんかじゃない。
ワゴンの中から端切れを選ぶ。
ワタルくんの布団カバーは見れば見るほどひどい状態だった。
まるでホラーだ。血の跡のような細かい染みまで点々と。
「切ってつぎはぎするしかないもんな」
越えてはいけないラインを越えてるんだろうな。
自覚はあった。けど、端切れを求めるのは自分の趣味の延長でもある。
布団カバーづくりを強引に申し出たのは百バーセントぴゅあな思いからじゃないのは分かってる。
でも俺は宍倉さんに何を求めてるんだろう。
多くは求めてない。ただ繋がっていたいんだ。細い糸でも。
宍倉さんのこと知れば知るほど──
今、心の中で育っているのが恋の芽なら、咲かずに枯れてしまえばいい。




