出会い 4
「ホントに女じゃなくて男です。声だってほら! なんなら証拠を!」
必死すぎて鼻の奥が痛い。力んだら鼻血が出そう。悲鳴に近いのに、カラスの鳴き声にさえ負けてる。
こうなったら下着を脱いで証明するしかないのか。
ゴミ袋を提げたおばさんがマンションから出てきた。こっちを向いて「おはようございます」って挨拶してゴミを捨てて戻っていく。どんな場面に遭遇したら彼女の日常が崩れるんだろう。不自然な体制で男二人が対峙してるのに気にならないのか。
「ああ……男か女か迷ったけど。やっぱ男か」
沈黙を破るだみ声に抑揚はなく、がっかりしてるようにも見える?ってことは良かったのか。脱がずに済んで。ほっっ
それにしても朝っばらからターゲットを物色するなんて。ヤバいやつ。匿名ですぐに警察に通報しないと。
「じゃ……俺はこれで……」
俺にも、俺の体にももう用はないだろう。
刺激しないように視線をはずし、スマートに立ち去ろう。平静を装い後ろ向きでチャリのハンドルを探る。
「え? ええ? え?」
なぜか男の顔がぐっと迫ってきた。この角度を保ったままだと唇が重なってしまう。
まさかバイだった?男か女か迷ったけどって言ったのは、今日は男を襲いたい気分って意味だったのか。
全身全部、思考まで固まって、正常に機能してるのは五感だけ。
ただし音も絵もスローモーション。
上向いた顎の先に太陽がある。歩きスマホの会社員が脇を通る。
俺と男以外は透明な向こう側でいつもと変わらない日常を送ってる。
男の顔がゆっくりゆっくり下りてくる。
時の進みが他とは違う。まつ毛長い。薄いブラウンの虹彩に瞳孔まで焦げ茶色。
死にかけて突然甦る記憶のように、小さいころに飼っていた柴犬のトトの瞳が男のそれに重なる。
唇は薄いのに艶と弾力があって柔らかそう。なに考えてる?なんで抵抗しないんだろう。
唇を少し開いて、ぎゅっと瞼を閉じた。




