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今から一緒に、死にに行こうぜ  作者: シロツメクサ次郎
不良と少女
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不意打ち

夏休みは毎日のように女の子と出かけていました。

そう言えば、とても充実した日々を送っているように聞こえるだろう。


もちろん嘘は言っていない。

夏休みも半分が過ぎたが、ほとんどの日々を女の子と一緒に過ごしている。

それは今日も変わらず、僕の少し前にはいつもよりゆっくり歩く七海と、七海と手を繋ぐ美羽ちゃんの笑顔がある。


「なんて顔をしてんだよ」


隣からの呆れた声に振り向けば、爽やかな笑みをたたえる河野の姿がある。

右手に虫取り網、肩から水筒と虫かごをぶら下げている小学生みたいな格好に、自分の顔がさらに歪んでいくのを感じる。


「そりゃこんな顔にもなるよ。早朝に叩き起こされて、何も聞かされず電車に乗せられて、リュックサックを三つも背負って山道を歩くことになったら……」


今から数時間前のこと。

夜中まで映画を観て夜更かしをしていた僕は、充実した気持ちで夢の中を旅していた。

しかし、「早起きは三文の徳って知ってるか?」と、そんな声が聞こえると同時に、強い衝撃が僕の右半身を襲った。


驚いて目を開けば、何故か僕は自室の床に転がっていて、目の前にはニヤニヤと意地の悪い笑顔を浮かべて僕の顔を覗き込んでいる七海がいた。

寝ぼけている僕に、七海は詳しい説明をすることなく僕を部屋から引きずり出し、母さんが作ってくれた朝食を何故か僕と七海と妹の三人で一緒に食べて、身支度を終えた僕を駅へと連れだした。


そして駅にいた美羽ちゃんと河野の姿を見て「ああ、今日もどこかに連れて行かれるんだな」って気が付いて今に至る。

ちなみに、何で今日は河野が一緒なのかと言うと、宮崎さんから今日はサッカー部が休みだという情報を仕入れた七海が、「山と虫が好きそうな顔をしている」と言う理由で呼び出したらしい。


どんな理由だよと呆れたが、しかし七海の選択は正しかったようだ。

山に到着してからの河野は、病院で出会った子供たち顔負けの笑顔と元気を爆発させている。


「見ろよ美羽ちゃん!アブラゼミだぞ!」

「ギャー!!」

「アッハッハ。そんなに喜ばれると、こっちまで嬉しくなるな~」


涙目になった美羽ちゃんが、七海の腕にしがみつく。

そんな彼女を見て、七海は少しだけ呆れたように口元を緩めて、


「美羽」

「な、なに?」

「カマキリ~」

「きゃああああああああ!」


幼気な少女の悲鳴が木霊する山中を歩くこと数十分。

ようやく僕たちは目的地に到着した。

そして、到着と同時に僕は今日の目的地がキャンプ場だったことを知った。


「少し前に美羽と病院のテレビでキャンプの特集を見てな。行ってみたいけど、二人だけで行くのもつまらねえからオモチャ……じゃなくて大切なお友達を誘おうと思ったんだ」

「おい、今なんて言った。ついに僕たちをオモチャって認めたな」

「それじゃあ私はサッカー部と機材を借りてくるから、その間美羽をよろしくな」


河野の腕を掴み、逃げるように歩き出す七海。

遠のいていく背中を睨みつけていると、ふと美羽ちゃんの小さな手が僕の服のすそを掴んだ。

「どうしたの?」と顔を向ければ、美羽ちゃんはじっと僕の顔を見上げて言った。


「お兄ちゃんは、お姉ちゃんのこと好き?」


思わぬ問いに、僕は口を半開きにしたまま固まってしまう。

しかしそんな僕を気にせず、美羽ちゃんは言葉を続ける。


「私は、お姉ちゃんが大好きだよ。時々イジワルだけど、でも優しくて、カッコ良くて、寂しいときはいつも一緒にいてくれるから」

「……そっか」

「お兄ちゃんはどう?お姉ちゃんのこと、どう思ってる?」


向けられた大きな瞳に、七海と言う女の子について考える。

宮崎さんにセクハラをするし、河野の名前を覚えないし、僕を何度も殺しかけてるし、地獄に落ちるべきだと思うことも多々ある。

しかし、


「進藤、美羽ちゃん!行くぞ~!」


宮崎さんがまた笑えるようになり、それどころか照れたり怒ったり、沢山の表情を見せてくれるようになったのは、誰のおかげなのか。

サッカーを失っても、以前と変わらず河野と笑い合えるようになったのは、今もサッカーを楽しんでいる彼らを素直に応援できるのは、誰が僕の心を受け止めてくれたおかげだろうか。


「なんだよ、人の顔をジロジロ見やがって。いくら私が美少女だからって見惚れんなよ」

「え、進藤と七海ってそう言う関係なのか?」

「そうなんだよ。コイツ、暇さえあれば私のことを見つめて来てよ。全く、私だって好き好んで美しく生まれたわけじゃねえのに」


……まあ、誰のおかげかはさておいて。

とりあえず、今は思うことを素直に口にするとしよう。


「……美少女?どこにいるの?」


言い終えるのと、僕の額に七海の拳が突き刺さるの、果たしてどちらが早かっただろうか。

うずくまる僕をよそに、七海は河野を連れて歩き出す。

そして美羽ちゃんは僕の前にしゃがみ込み、いつかの様に僕の顔を小さな両手で包み込み額を押し当ててくれた。


そう言えば、こうしていると痛みが和らぐと前に教えてもらったな。

祈るように固く目を閉じる美羽ちゃんの優しさに、僕はどうかこのまま育ってくれと願わずにはいられなかった。


そうして時間は流れ、キャンプ場で遊んだ日から少し経った夏休み最後の日。

真夏日と呼ぶにふさわしいその日の朝、いつもの様に七海から連絡が来た。

開いたメッセージにはただ一言、病院に来てくれとだけ書かれていた。


唐突なのは今さらだったので、僕は何の疑いもなく言われた通り病院に向かった。

そして、呼び出された病室に広がっていた光景に、言葉を失った。


教えてもらった病室の中、そこには窓際に置かれたベッドの上で沢山の機械に囲まれて眠る美羽ちゃんの姿があった。

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