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今から一緒に、死にに行こうぜ  作者: シロツメクサ次郎
不良と僕
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今から一緒に

一目見て思った。


コイツには絶対に関わっちゃいけないと。


一年前の高校の入学式当日。


出席番号順に並んだ生徒たちの中、一人だけ周囲とは纏っている空気が違う女の子がいた。


空気もそうだが、そもそも見た目からして他の人たちと違っていた。


女子にしては少し背が高いその子は、校則など知ったことかと言わんばかりに、美しい金髪を肩まで伸ばしていた。


不良。


一目見て、その場にいた全員がそう思ったに違いない。


本来ならば、先生たちがこぞって彼女の元へ歩み寄り、髪の色を戻して来いと詰め寄っているところだろう。


しかし、誰もそれが出来ないのは、彼女の纏っていた不思議な雰囲気のせいかもしれない。


恐ろしく整った目鼻立ち、吸い込まれそうな黒く大きな瞳。


生まれつきそうだった様にお似合いな金糸の髪。


世界でたった一人、同じ人間でありながら別の生き物。


そんな風に思える独特な空気が彼女には纏わりついていた。


七海伊織という生徒はネコの様に気まぐれな奴だった。


ある時は窓際の席で眠そうな顔をして外の景色を見つめていたり、学食のメニューを親の仇を見るかのように睨みつけていたり、図書室で本を読みふけっていたり、気が付けばどこにでもいて、いざその姿を拝もう思った時にはどこにもいない。


無断欠席は当たり前で、放課後には他校の生徒と喧嘩に明け暮れ、法律を嘲笑うかの如く喫煙を繰り返しているなんて噂も飛び交っていた。


そんな彼女だから、平凡な僕は卒業まで関わり合いを持たないと思っていた。


他の生徒たち同様に、精神的にも物理的にも距離を取るようにしていた。


しかし運命とは不思議なもので、それでも僕は彼女と出会ってしまった。


高校二年生になって一カ月が経ったある日、と言うか三日前の放課後。


学校の屋上に彼女はいた。


落下防止用に建てられた柵を背に地面に座り、黄昏に染まる空を見つめながら涙を流していた。


昼休みは多くの生徒が利用しているこの場所だが、まさか放課後にまで誰かが利用しているとは思わなかった。


彼女も同じことを思ったのだろう。


僕たちは言葉もなく、ただ目を見開いて互いの顔を見つめていた。


そうして二人で見つめあうこと数十秒、沈黙を破ったのは彼女の方だった。


「普通さ、屋上で美少女が一人泣いていたら、大丈夫ですかって声をかけるもんだろ」


「……美少女?」


反射的に首をかしげると同時に、額に強い衝撃。


額を押さえてしゃがみ込むと、目の前に革靴が転がった。


それを見て、ようやく僕は靴を投げつけられたことを理解した。


「それで、ここに何しに来たんだよ?えっと、……ゴンタ?」


「誰だそれ、進藤しんどう 達也たつやだよ。同じクラスなんだから名前くらい覚えろ」


「そうだそうだ、進藤だった。大丈夫、覚えた。あ、ちなみに私は」


「知ってるよ。七海伊織だろ」


「え、何で知ってんの?ストーカー?」


「この学校で君を知らない人はいないよ。授業をサボるのも、校則無視して髪の毛を染めてるのも君だけだからね」


「ああ、何だそう言うことか。てっきり私は、ひそかにこの美少女伊織様に想いを寄せていたのかと」


「……美少女?」


「もう一発食らっとくか?」


人は見た目じゃないと聞いたことがあるが、残念ながら彼女は見た目通り凶暴らしい。


怯える僕に、彼女はもう片方の靴を振り上げたまま言葉を続ける。


「あれ?そういえばお前ってサッカー部じゃなかったか?練習始まってるのに、こんなところで油売ってていいのかよ」


「ああ、うん。それなら大丈夫」


そう言ってズボンのすそをめくり、ふくらはぎに貼られた大きなガーゼを見せる。


「療養中ってわけか」


「正解。そう言うわけだから、僕はこれで」


「ということは、お前は今、暇してるんだよな?」


微かに吊り上がる彼女の口元に、何やら不気味な予感がした。


しかし、それでも素直に「一応……」と頷けば、彼女は心底嬉しそうに笑顔を裂かせて、


「そうか、暇ならちょうど良いや。あのさ……」




「今から一緒に、死にに行こうぜ」




「……は?」

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