表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チェスガルテン創世記  作者: ノミ丸
3/64

第一章――カザド②――

 カザドほど、平穏と言う言葉が似合わない男はいなかった。確かに世界は平穏とは言えないが――特にほとんどの天の民(ヴィト)にとっては――争いとは無縁のまま人生を終えられる幸福な者もいる。

 カザドがほかの天の民(ヴィト)と同じように慎ましく生きられないのは、彼がすなわち、罪人であるからだった。

 カザドは今踏みしめているこのヴァナヘイムよりも、はるか東の地でその生を受けた。

 父の顔も母の顔も知らず、誰が与えたのかわからない名前だけを持って、年の近い他の天の民(ヴィト)たちと共に、奴隷として売られていた。

 遥か大昔に起こった神々の争い以来、多くの天の民(ヴィト)が隠れて生きていた。地の民(アマリ)に発見されれば最後、その場で殺されるか、奴隷として酷使されるかのどちらかだった。

 珍しいことではなく、殺されなかっただけましなのだと当時のカザドは思っていた。

 カザドを買ったのは、小太りな地の民(アマリ)の貴族だった。当時の地帝の傍近くに身を置く成金上がりのようだったが、カザドも詳しく知っていたわけではない。

 貴族や成金が、どのような意味を持つのか知らなかったというのもあるが、そもそも、その男の顔も名前もとうの昔に忘れてしまった。

 覚えているのは、その男が褒められない嗜好の持ち主だったことだ。男は己よりも弱く力の無い者を、いたぶり傷つけることを何より好んだ。

 それだけではなく見た目の良い天の民(ヴィト)ならば、少年であろうと少女であろうと自室に連れ込み、夜伽の相手をさせたのだ。

 男のお気に入りは胸糞の悪いことにカザドだった。理由は単純なもので、カザドが天の民(ヴィト)の中でも珍しく、青い髪と金の目を持っていたからだ。

 天の民(ヴィト)の唯一の王であり神、天王ヴィセーレンは、紺碧の髪と、白雲のように抜ける肌、太陽のような黄金の瞳だったと伝わっていた。この組み合わせの体色を持って生まれる天の民(ヴィト)は滅多にいない。

 地の民(アマリ)の男は彼を寝台で引きよせては、楽しそうに笑うのだった。

「天王を抱いているような心地がする」と……

 それを聞くたびに、舐めまわすような手つきを体に感じるたびに、カザドは粘るような気分の悪さを感じていた。

 それが、嫌悪という感情であることも知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ