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チェスガルテン創世記  作者: ノミ丸
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第三章――子供たち④――

「そりゃぁ恩はあるさぁ、おれ達全員じいさんに拾われた身だからなぁ。けどもう、おれ達だけで充分生きていけるだろぉ。じいさんなんかいつ戻るかもわからねぇし、くたばってるかもしれねぇし、たとえ生きてたってもう、先なんか長くねぇだろぉ。積み荷半分なんてけちくさいこと言ってんのもじいさんだし……。もう帰りなんて待ちたかねぇよぉ。どうせ同じ流れ者なら、フェンリルが筆頭で良いじゃねぇかぁ。そのほうがずっと自由だぁ。お前だってそう思うだろぉ?」


 まくしたてるボズゥに同意を求められて、トルヴァは顔色を無くした。

 ボズゥがフェンリルに望んでいることについては、そう簡単に返答できるようなことではなかった。


「ボズゥ、それを言った相手がオレで良かったと思えよ。聞かなかったことにしといてやる」

「なんだよぉ、お前だって少しは似たようなこと考えてるだろぉがぁ? 一緒に提案してみようぜぇ?」


 トルヴァはボズゥのくしゃくしゃの脳天めがけて拳骨をおみまいした。


「そんなおっかない真似ができるか馬鹿! オレの考えはお前とは大分違ってる。そもそもフェンリルが、じいさんをないがしろにすることを賛成すると思うか? オレだって反対だ。独立したいってんなら、じいさんが戻った時にでも相談すればいいだろ。それまでは黙ってろ!」


 念を押すトルヴァだったがボズゥはそれどころではなく、呻き声をあげながらその場に沈んでいった。


「何してんの?」


 そこへ、ひとり気ままに狩りを続けていたダインが戻ってきた。

 ダインは肩に背負っていた新たなウサギを鞍につけ、うずくまるボズゥにちょっかいを出した。


「けんかした? 負けた? ボズゥ?」

「うるせぇ黙れどこかへ失せろぉ」


 ボズゥの機嫌の悪さなど気にもせず、ダインはにやにやといたずら好きの笑顔をたたえて、今度はトルヴァに向き直った。


「そうだ。地の民(アマリ)を見つけたんだけど、どうする?」

「ダイン、それを早く言え。数はどのくらいだ?」


 ダインは指で数字を示した。


「騎馬が四騎。馬車は無かったけど、山道をつっきろうとしてるみたいだった。あ、あと、最後におそった馬車が向かってった方向から来たみたいだったけど」

「騎馬だけ?」


 トルヴァとボズゥは顔を見合わせた。地の民(アマリ)の馬車が向かった先とはつまり、女神のおわす帝国のことだ。ダインが目撃した騎馬は、帝国から来たのだ。

 商人の隊が移動するのを何度も見てきたが、騎馬のみは初めてのことだった。


「とりあえずオレ達で様子を見に行くか。案内してくれダイン」


 ダインは頷くと雪焼けの布を頭から巻きつけ、山道へと先導した。二人も同じく布を巻き後を追う。


(どうしたもんかな)


 トルヴァは考えた。フェンリルが警戒するようなことを言っていたのを思い出して、襲撃は無しとする。

 この間の荷物で手いっぱいだし、騎馬だけとなると食料もあまり期待できない。それよりも、少人数で帝国からと来たというのが気にかかった。

 ただ山道を抜けるだけならばいいが、そうでないならば厄介かもしれない。


(一度確認したら、フェンリルたちと合流しよう)


 だがトルヴァの考えとは裏腹にボズゥは彼の肩を引き、小声で不吉なことをささやいた。


「なぁ、おれらでやっちまおうぜぇ」

「おい何言い出すんだ」


 トルヴァは睨んだがボズゥの紫紺の瞳が普段よりも暗く、危険な企みに光っていた。いやらしさの滲みでる、悪い笑顔を浮かべてボズゥは詰め寄った。


「隊商じゃないぜぇ、たかが四騎の騎馬だろぉ?」

「そういう問題じゃない。こんな冬の雪山に騎馬だけって、なんか、あやしいだろ」


 何がどうあやしいのか。

   違和感があるものの、その正体を説明するための具体性がトルヴァにはまだわからなかった。

 そんな彼をボズゥは鼻で笑った。


「なんかあやしいって……そんな奴、今までだっていただろぉがぁ。びびってるだけだろぉ? なっさけねぇ。……フェンリルが来る前にかたをつけちまえばさぁ、きっとさっきの話に耳を貸してくれると思うんだよぉ。じいさんなんかいなくても、おれたちだけで充分だってさぁ。なぁトルヴァぁ……」

「いい加減にしろボズゥ!」


 トルヴァの怒鳴り声に前方を歩いていたダインが驚いてふり返り、ボズゥは顔をしかめた。

 トルヴァは、なんでもないから行くようにと身ぶりで伝え、ボズゥの肩をおさえる。息がかかるほど近くで、ダインには聞こえないように言った。

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