表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

田中美咲①

「僕と付き合ってください。お願いします」


卓也が深く頭を下げながら右手を差し出してくる。


私は少し考えたふりをした。というのも、正直今日あたり告白されるのではないかと勘づいていたのだ。


そして、もし告白されれば承諾しようと決めていた。ただ、即答してしまうと軽い女という印象を持たれるかもしれない。


しばらくすると、彼が不安になり顔を上げた。


それを見た私は、彼の手を握って返事をした。


「はい、よろしくお願いします」


卓也は目を丸くすると、分かりやすくうれしそうな顔をして喜んだ。



1ヵ月ほど前、馴染みの本屋でのことだった。


最近映画化されて話題になっている小説を探しに来ていた私は、なかなかその本を見つけ出せずにいた。


「人気だから目立つ場所に置いてあると思ったんだけど……」


その時、目当ての本を片手に持ったスーツ姿の卓也が、私の前を通りかかったのだ。


その時が初対面だったのだが、私はつい声をかけてしまった。


「すみません! その本、どこにありましたか?」


突然のことに驚いたのだろう。彼は目を見開いて、しばらく口をパクパクさせていた。


しかし、すぐに我に返ったような表情をすると、「あ、これのことですか?」と、持っている本を指差しながら聞き返してくる。


そして、私が頷く前に、彼は続けた。


「すみません、この本のことに決まってますよね。入口の右側に積み上げてありましたよ」


私は店の入口の方を振り返る。たしかにそこには、探していた本が目立つように平積みにされている。


私は照れながら言った。


「全然気づきませんでした。ありがとうございます」


彼が優しそうな笑顔で「いえ」と答えると、私は少し頭を下げて、入口にあるその本の方へ歩いて行った。



それから1週間ほど経ったある日、私は仕事終わりに同じ本屋に来ていた。


好きな作家の棚を眺めていると、後ろから視線を感じたのだ。


そこにいたのは、卓也だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ