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渡辺卓也①

中学生の頃から、美咲のことをここまで愛していた訳ではない。


というより、クラスの中心でいつも明るい笑顔を振りまいていた彼女に、僕のような地味で暗い人間が話しかけることは許されなかった。


僕と美咲の間には透明な壁があったように思う。


物理的には、それを超えることは可能だが、その壁に触れてしまうと周りから好奇の目を向けられる。


僕は、自分の身分をわきまえていたつもりだ。


しかし、驚いたことに最初に話しかけてきたのは彼女の方だった。


休み時間に1人で本を読んでいると、美咲が肩を叩いてきた。


「その本って、もしかして最後に犯人が自殺しちゃうやつじゃない?」


卒業を控えた2月のことだった。全く暑くもないのに、体から大量の汗が噴き出してくる。


「え、いや、あの、まだ全部読んでなくて」


「あ、ごめん。今完全にネタバレだったよね。聞かなかったことにして」


苦い表情で両手を合わせると、僕の反応を待たずに、友達のもとへ駆けていった。


母以外の女性と会話をしたのは、とても久しぶりのことだった。


その日は1日中体が火照っていて、授業も耳に入ってこなかった。


なぜ急に僕に話しかけてきたんだろう。


あの謝り方から考えると、わざわざ小説のネタばらしをしたくて、近づいてきたわけではないだろう。


そうなると、答えは1つしか考えられない。


きっと、僕に好意があるんだ。


それから卒業までの1ヶ月間、僕らは互いに意識をしていたが、周りの目もあって二度と話すことはなかった。


身分の違いのせいで実らない恋。そんなものをテーマにした映画があったような気がする。



卒業式の日、学校のロータリーで多くの生徒が友達同士で写真を撮っているなか、僕は早々に校門を出ていった。


最後に美咲の方へ目線を送ると、彼女も僕の方を一瞥した。


おそらく周りに友達がいたので恥ずかしがっていたのだろう。長い時間ではなかったが、別れを惜しむような表情で、確実にこちらを見つめていた。


これが美咲との最後の思い出だ。




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