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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
本編-新年度編-
98/202

第65話『ひさしぶりに-後編-』

 俺はサクラの指示に従って、サクラの後にお風呂から出た。

 寝間着に着替えて、洗面所から出ると入口近くでサクラが待ってくれていた。

 サクラと一緒に、リビングにいる両親にお風呂を出たことを伝える。その際、母さんが興味津々な様子でお風呂でのことを訊いてくるので、俺達は「温かくて気持ち良かった」とだけ言って、サクラの部屋に戻った。


「うちのお母さんならともかく、優子さんがあんなに楽しそうに訊いてくるなんて」

「サクラからの声かけを待っているとき、サクラと一緒に風呂に入ることを伝えたんだ。そのときも楽しそうだったし。付き合い始めたとき、父さんと一緒に風呂に入ったことがあるんだってさ」

「なるほどね」

「あのときに父さんが母さんを抱きしめて、『部屋に戻りなさい』って言ってくれなかったらどうなっていたことか」

「そうだね。ただ、徹さんに抱きしめられたときの優子さん、凄く幸せそうだったな。お母さんから、優子さんと徹さんは高校時代に付き合い始めたときからラブラブだって聞いたことがあるけど、それも納得だね」

「……そうか」


 両親が出会ったのは30年以上前のことだ。今もとても仲がいいのは凄いと思う。俺もサクラとそういう関係でいられるようになりたい。

 ――プルルッ。

 俺のスマホが鳴っているので確認すると、父さんからメッセージが届いていた。確認してみよう。


『母さんの気持ちを落ち着かせたから安心して。これから、母さんと一緒に風呂に入る。だから、大輝は文香ちゃんとゆっくりできると思う。何かありそうなときは父さんがちゃんと止める』


 父さんからのこのメッセージを見る限り、きっと大丈夫だろう。

 父さんに『ありがとう』と返信し、サクラに父さんとのトーク画面を見せる。それを見たサクラはほっと胸を撫で下ろす。


「これでゆっくりと過ごせそうだね。優子さんに色々と訊かれるのは嫌じゃないけど、ダイちゃんと恋人になった初めての夜だから。2人きりでゆっくり過ごしたくて」


 えへへっ、と照れくささも感じられる笑顔になるサクラ。その笑顔が可愛いのはもちろんのこと、『初めての夜』という言葉に思わずドキッとしてしまう。


「そ、そうだな。……サクラ、髪を乾かしてあげるよ」

「ありがとう。じゃあ、お願いするね。その後に私がダイちゃんの髪を乾かしてあげるから」

「ありがとう」


 それからはドライヤーを使って互いの髪を乾かし、サクラの日課となっているマッサージを一緒にした。

 お互いに明日提出する課題は終わっているので、サクラの部屋の中にあるアニメのBlu-rayを一緒に観る。隣同士に座り、サクラが淹れてくれた冷たい紅茶を飲みながら。

 ラブコメ作品のアニメなので、時折キュンとなるシーンがある。そのときを中心にサクラとキスをする。

 ストーリー的にきりのいいところまで見終わったときには、時刻は午後11時近くになっていた。


「もうこんな時間なんだね。いい感じのところまで見たし、そろそろ寝る?」

「そうだな。明日は学校だし、そろそろ寝るか」

「うんっ」


 俺はサクラと一緒に2階の洗面所で歯磨きをする。

 これから、久々にサクラのベッドで一緒に寝ると思うとドキドキしてくる。恋人になってから初めての夜だし。サクラも同じようなことを思っているのか、鏡に映っているサクラの顔は結構赤くなっていた。

 1階のお手洗いで用を足し、自分の部屋から枕を取り出して、俺はサクラの部屋に戻る。サクラは既に戻っており、ベッドの側に立っていた。


「じゃあ、寝ようか」

「ああ」

「じゃあ、君達はクッションの上で寝ようねぇ」


 優しい声色でそう言うと、サクラはベッドの上に置いてある三毛猫と黒白のハチ割れ猫、黒猫のぬいぐるみを、ベッドの側のクッションに置く。ハチ割れ猫と黒猫は、入学式の翌日に遊んだときとデートで、それぞれ俺がクレーンゲームで取ってあげたやつだ。ぬいぐるみに声を掛けるなんて可愛いな。俺もぬいぐるみになりたい。


「いつもは、この子達と一緒に寝ているんだ。ダイちゃんがゲットしてくれたこの2匹のぬいぐるみは抱き心地がとても良くて、今まで以上にぐっすりと眠れるの」

「そうなのか。癒しと安眠を与えられているようで嬉しいよ」

「ありがとね。ダイちゃん、電気消してくれるかな。代わりにベッドライト点けるから」

「分かった」


 扉の近くにあるスイッチを押して、部屋の照明を消す。そのことで部屋の中が暗くなるけど、それからすぐにベッドライトが点される。

 ベッドの方に視線を向けると、サクラがこちらを向きながらベッドに横になっていた。そんなサクラの顔には、大人っぽさも感じられる落ち着いた笑みが浮かんでいる。


「ダイちゃん、来て」


 サクラは静かな口調でそう言い、ポンポン、とベッドを軽く叩いた。

 あぁ、いよいよそのときが来たのか。心臓バックバクだ。今日は一緒に風呂に入ったしお風呂を出てからも何度もキスしたからかいい雰囲気になっているし。ベッドの中で色々とする展開になるのだろうか。


「どうしたの? 立ち尽くしたまま、こっちをじっと見て」

「し、失礼します」


 枕をサクラの枕の隣に置いて、俺はサクラのベッドの中に入る。横になって、サクラと向かい合う体勢に。

 サクラが掛け布団を胸の辺りまで掛けてくれる。そのことでサクラの温もりと甘い匂いに包まれたような気がした。


「ダイちゃんのベッドでは、この前の春休みに一緒に寝たけど、私のベッドで寝るのは何年ぶりかな?」

「少なくとも、中学以降は一度もないな。小学4年か5年くらいが最後だったと思う」

「やっぱりそのくらい経っているよね。小5が最後だとしたら、6年ぶりか。小さい頃は2人で寝ると余裕があって、和奏ちゃんと3人で眠ったときもあったのに。互いに体を横に向けているから今はどこも触れていないけど、仰向けになったらきっとどこかしら触れちゃうね」

「だろうな。風呂に入ったときにも思ったけど、それだけお互いに成長したってことなんだよな」

「そうだね。それで……お風呂と同じようにダイちゃんと2人なら、多少狭くてもいいって思える」

「……俺も」

「……嬉しい」


 サクラは言葉通りの嬉しそうな表情を見せ、ゆっくりと俺に顔を近づけてくる。その流れで俺に唇を重ねてきた。さっき一緒に歯を磨いていたからか、サクラの唇から歯磨き粉のミントの匂いがほんのりと香ってきた。

 キスしてくれるサクラを離したくなくて、手をサクラの背中へと回す。寝間着越しでもサクラの温もりがはっきりと感じられる。

 俺が手を回したことでスイッチが入ったのか、サクラは俺の口の中に舌を入れてきて、俺の舌と絡ませてくる。


「んっ……」


 そんなサクラの甘い声と舌が絡む音で,気持ちがさらに高ぶり、気持ち良さも感じられるように。だから、俺の方からも舌を絡ませる。サクラの口から歯磨き粉の味がするけど、こんなに甘かったっけ。

 これまでとは違った激しいキスをする中、サクラも俺を抱きしめてくる。体の全面でサクラの温もりと柔らかさを感じられ、凄く幸せな気持ちになる。

 やがて、俺から唇を話すと、目の前には恍惚とした表情で俺を見つめるサクラの姿があった。何て可愛いんだろう。


「……舌を絡ませるキスしちゃった。今まで以上にダイちゃんに触れてる感じがして。こういうキス、私は好きだな」

「俺もいいなって思うよ。気持ちよかった」

「ダイちゃんも? 私、気持ちよくて声漏れちゃったよ。今のキスをしたら、ダイちゃんがもっと好きになったよ」

「俺ももっと好きになった」

「……幸せです」


 可愛らしい声でそう言うと、サクラは俺の胸の中に頭を埋める。


「温かくていい匂いがする。ダイちゃん、好きっ……」


 それからも好きだと何度も呟きながらスリスリしてくる。俺はサクラの頭を優しく撫でる。あぁ、幸せでたまらない。

 少しの間埋めた後、サクラはゆっくりと顔を離す。そのことで、至近距離で見つめ合う体勢に。


「ダイちゃんと恋人になれて幸せです。改めて、これからよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」


 約束の意味を込め、今度は俺の方からサクラにキスをする。これで何度目のキスなのか分からないけど、それでも多幸感をもたらしてくれる。

 長らく、サクラとは幼馴染という繋がりしかなかったけど、今日から恋人としての繋がりを持つことができた。いつか、また違う形の繋がりを持てるようになりたいと願う。


「ふああっ……」


 いつもよりも大きめに口を開け、サクラは可愛らしいあくびをする。その姿を俺に間近で見られてしまったからかサクラははにかむ。それもまた可愛らしい。


「あくび出ちゃった。ベッドとダイちゃんが温かいから眠くなってきちゃった……」

「今日はいつも以上に色々なことがあったからな。今日はそろそろ寝ようか」

「うんっ」


 微笑みながら頷くサクラ。

 ベッドで舌を絡ませるキスもしたから、それ以上のことをしたい気持ちが膨らむ。ただ、サクラが眠いと言っているので今日はもう寝よう。あくびをするサクラを見たら、俺も眠くなってきたし。眠気がうつる話ってたまに聞くけど、それって本当なのかも。


「ねえ、ダイちゃん。おやすみのキスをしたいな」

「もちろんいいよ。恋人らしい感じがするな。……おやすみ」

「おやすみなさい」


 言い出しっぺのサクラからおやすみのキスをしてきた。一瞬触れるだけだったけど、舌を絡ませる長いキスをした直後だから、こういうキスもいいなって思える。

 俺は仰向けの状態になり、サクラが俺の左腕を抱きしめる形で眠りについた。

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