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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
本編-新年度編-
95/202

第62話『恋人になったよ』

 サクラと恋人同士になった俺は、サクラと一緒に自宅に向かって歩いている。小さい頃から数え切れないほどに歩いている道も、恋人になったサクラと一緒だと新鮮だ。

 サクラと恋人として付き合うことになったのが嬉しくて、顔が緩んでしまっている。周りの人が見たらどう思うだろうか。


「あらぁ。あの子って近所に住んでる大輝君じゃない? いいわね~」

「大きくなってイケメンになったわねぇ。一緒に歩いている女の子は何度か見たことあるわぁ。恋人かしら。手を繋いでいるし。初々しいカップルさんねぇ」


 近所に住んでいるおばさん達のそんな話を小耳に挟む。手を繋いでいるからか、やっぱりカップルに見えるようだ。

 知っている方達なので、俺は軽くお辞儀する。だからか、おばさん達から茶色さの感じられる叫び声が。


「す、凄く盛り上がってるな。何歳になっても、女性って恋愛話が好きなのかな」


 そう言ってサクラを見ると、サクラは俺から顔を逸らす。ど、どうしたんだろう? 手は恋人繋ぎでしっかりと握ってくれているから、嫌われていることはないと思うけど。耳が結構赤いので、おばさん達にカップルだと言われたことに恥ずかしくなったのかな。


「ご、ごめんね、ダイちゃん。顔を逸らしちゃって。その……ダイちゃんと付き合うことになったことと、あのおばさん達にカップルって言われたことが嬉しすぎて、ニヤニヤが止まらないの。その顔をダイちゃんに見られるのが恥ずかしくて、つい顔を逸らしちゃったの」

「そうだったのか。俺も嬉しくてニヤついているよ。頬が熱いから、きっと赤くなっているんだろうな」

「……そうなの?」


 そう言うと、サクラは俺の方に振り向いてくれる。自己申告していただけあって、サクラの真っ赤な顔がニヤついている。俺と目が合った瞬間、サクラの顔の赤みがさらに強くなり、恥ずかしそうな表情になる。俺に顔を見られていることに気づいたのだろうか。


「ううっ、ニヤついていた顔見られちゃった。恥ずかしい」

「ニヤついている顔も可愛いよ。俺は好きだけどな」

「そ、そう言ってくれて良かった。ありがとう。ダイちゃんのニヤけた顔も嫌じゃないよ」

「……そうか」


 嫌いとか厭らしいとか言われなくて良かった。

 それからすぐに俺達の家に到着する。確か、父さんも母さんも特に予定はなかったはずだから、2人とも家にいるはずだ。


「相手が両親でも、サクラと付き合い始めるのを報告すると思うと緊張してくるな」

「私もちょっと緊張してる。でも、優子さんは私がダイちゃんを好きなのは知っているよ。徹さんも気づいているんじゃないかな。だから、きっと大丈夫だよ」

「マジか。父さんも母さんも俺がサクラを好きなのは知ってるよ」

「そうだったんだ。じゃあ、私達を見守ってくれていたんだね。うちの両親と和奏ちゃんは私がダイちゃんを好きなのは知ってる」

「そうなのか。和奏姉さんは俺がサクラを好きなのは知ってる。サクラの御両親は分からないけど、母さんルートで知っていそう」


 母さんと美紀さんは、俺とサクラの様子を楽しく喋っていそうだ。


「よし、まずは俺の両親に報告しよう」

「そうだね」


 俺はサクラの手を引いて帰宅する。

 家の中に入ると、紅茶の香りがして、リビングの方から父さんと母さんの話し声が聞こえてくる。よし、これならすぐに報告できそうだ。

 サクラと手を繋いだままリビングに行く。

 玄関の開閉音や俺達の足音に気づいたのか、俺達が何か言う前に両親はこちらに振り向いた。


「おかえり、大輝、文香ちゃん」

「2人ともおかえり。どうしたの? 手を繋いじゃって」


 その理由に見当が付いているのか、母さんは楽しげな笑みを浮かべている。母さんほどではないものの、父さんも俺達を見て微笑んでいる。だからか、さっきまであった緊張が体から抜けていく感じがした。


「実は……さっき、サクラと恋人としても付き合うことになった。俺から告白したんだ」

「その告白を喜んで受け入れました。こ、これからは息子さんの恋人としてもよろしくお願いします!」


 緊張しているのか、サクラは頬を赤くし、普段よりも大きな声でそう言った。そんなサクラもとても可愛い。

 俺達が報告してから数秒くらい経って、父さんと母さんは俺達に拍手を送る。


「おめでとう。ようやくって感じだな、母さん」

「そうね! 2人ともおめでとう! 特に仲直りできてからの2人は仲が良かったし、いつ付き合うのかなって思っていたわ。まあ、一紗ちゃんと杏奈ちゃんっていう可愛い子と知り合ったから、その2人のどちらかと付き合うかもしれないとも思っていたけど。その話題で何度も美紀ちゃんと話が盛り上がったわ」


 予想通り、母さんは美紀さんとその手の話題で盛り上がっていたのか。

 一紗と杏奈は何回も家に来たことがあるし、俺と一緒にいるときに母さんと会っているから、2人と付き合う可能性があると思っていたのか。もしかしたら、2人が俺に好意を抱いていることに気づいていたのかもしれない。

 俺達が付き合うことを祝ってもらえると嬉しい気分になる。

 これで、うちの両親には恋人になったことを報告できたな。


「2人とも、文香ちゃんの御両親には報告した?」

「いいえ。優子さんと徹さんが最初の報告です」

「なるほどね。じゃあ、私から美紀ちゃんのスマホにテレビ電話するから、そこで報告してね!」


 それからすぐに、母さんが美紀さんにテレビ電話。小さい頃から知っているとはいえ、恋人の御両親に付き合うことを報告するんだ。緊張するなぁ。

 美紀さんは哲也おじさんと一緒に自宅で映画を観ながらゆっくりとしていた。なので、俺達は画面越しに交際し始めたことを報告。そうしたら、


『ううっ……良かったなぁ、文香。大好きな大輝君と付き合えることになって。2人ともおめでとう! 大輝君、文香を幸せにしてやってくれ!』


 報告してすぐに哲也おじさんは号泣。3年前の一件もあったし、何を言われるか不安だったけど、おめでとうと言ってもらえて良かった。


「もちろんです。文香さんを幸せにします!」

『……頼んだよ』

『もう哲也君ったら。小さい頃から、文香は大輝君が好きだって言っていたもんね。良かったね。それは大輝君にも言えるね。優子から大輝君の想いは聞いていたし』


 やっぱり、母さんがサクラへの好意を美紀さんに伝えていたのか。


『2人ともおめでとう! きっと、2人なら仲良くやっていけると思うわ』

「ありがとう、お母さん、お父さん!」

「ありがとうございます」


 サクラの御両親への報告も無事に終わった。互いの両親に報告すると、恋人になったというよりも、結婚することになった感じがしてくる。実際に結婚することになったら、そのときもしっかり報告しよう。

 お互いの両親に報告が終わったので、俺はサクラと一緒に俺の部屋に行く。


「あと伝えておくのは……青葉ちゃんに羽柴君、和奏ちゃんくらいかな」

「そうだな。まずは和奏姉さんに伝えるか」


 和奏姉さんは自覚なきブラコンなので、報告したらどんな反応をされるのか、正直一番怖い人だ。

 俺はスマホを手に取り、和奏姉さんに『今から電話してもいいか?』とメッセージを送る。

 和奏姉さんはスマホを見ているのか、俺が送信したメッセージにすぐに『既読』マークが付き、『いいよ!』と返信が送られてきた。なので、俺は和奏姉さんに電話を掛ける。


『もしもし。どうかした? メッセージならともかく、電話してもいいかだなんて』

「サクラと俺から大事な話があるんだ。だから、テレビ電話をしてもいいかな」

『うん、いいよ』


 スマホを耳から離して画面を見ると、程なくしてパーカー姿の和奏姉さんが画面に映る。チラッと見える背景からして、姉さんは家にいるようだ。画面が固定されているので、スマホ立てや三脚に置いているのかな。

 ちゃんと映るようにと、サクラは俺のすぐ隣に座る。ちゃんと映ったのか、和奏姉さんとサクラは笑顔で名前を呼び合いながら手を振っている。


『それで、2人から話したい大事なことって何なのかな?』

「……サクラと恋人としても付き合うことになったんだ」

「ダイちゃんから告白してくれて。やっと恋が叶いました」

『良かったね! 2人ともおめでとう!』


 和奏姉さんは嬉しそうな様子で拍手をした。ブラコン姉さんがどんな反応をするか不安だったけど、普通に祝福してくれて一安心だ。


『2人の恋心を知っていたから、こうして結ばれると嬉しいよ。やっと結ばれたっていう安心感もあるかな。あと、一紗ちゃんや杏奈ちゃんっていう可愛い子が近くにいるから、大輝が2人のどちらかと付き合う可能性も正直考えてた』

「そ、そうか。実は杏奈も告白してくれてさ。2人に勇気をもらって、杏奈の告白を断る流れでサクラに告白したんだ」

「好きだって言ってくれて凄く嬉しかったです! キスもしてくれて、幸せな気持ちでいっぱいです」

『ふふっ、もうさっそく惚気話聞かされちゃった。仲良く付き合いなさいね。そうかそうか。これで、いつかは義理だけどフミちゃんがあたしの妹になるんだね。そう思うと、とても嬉しいわ』

「まだ結婚していませんけど……いずれはそうなるかと」


 えへへっ、と頬を赤くしてはにかむサクラ。いずれは和奏姉さんと義理の姉妹になるとサクラが言ってくれることが嬉しい。実際にそうなるように頑張らないと。


『でも、そっかぁ。大輝はフミちゃんと付き合うことになったかぁ。凄く嬉しいけど、寂しい気持ちもあるなぁ。一人暮らしを始めるときと同じかそれ以上かもしれない。それだけ、大輝のことが好きなんだね』


 しんみりとした様子で語る和奏姉さん。その気持ちが俗に言うブラコンなのでは。ようやく自覚してくれた……かな?


『大輝とフミちゃんが恋人になったわけだし、次に帰省したときは昔みたいに3人で一緒にお風呂に入ろうね!』

「ほえっ」


 お風呂というワードに刺激を受けたのか、サクラは可愛らしい声を漏らし、頬の赤みをさらに強くさせる。俺も頬が熱くなってきた。


「ま、まあ……和奏ちゃんとなら、3人で一緒に入ってもいいですよ」

「サクラがそう言うなら……今度、3人で一緒に入るか」

『うん! 楽しみにしてるね!』


 和奏姉さん、凄く楽しみにしているけど、次はいつ帰省するのか。大学が夏休み期間に入る8月か。それとも、ゴールデンウィークか。姉さんが帰省するまでに、サクラと2人でお風呂に入りたいな。できれば何度も。


「俺達が伝えたいのは以上だ、姉さん」

『分かった。仲直りできて、恋人同士になれて良かったね。じゃあ、またね』

「うん、またな」

「またね、和奏ちゃん」


 少しの間、和奏姉さんと手を振り合って、こちらから通話を切った。


「和奏ちゃんにもおめでとうって言ってもらえて嬉しいな」

「そうだな。俺は安心感も強いけど」


 しょんぼりされたり、号泣されたりしなくて良かったよ。

 今度、和奏姉さんが帰省のとき、3人で一緒に入浴することになったからか、サクラの顔は今も赤いままだ。


「……つ、次は青葉ちゃんと羽柴君だね」

「そうだな。俺は羽柴、サクラは小泉さんに報告するか? それとも、グループトークもあるし、そこで報告のメッセージを入れるか?」

「グループトークがいいんじゃないかな。私達2人のことだし。2人がメンバーのグループもあるから」

「分かった。じゃあ、グループトークで報告のメッセージを送ろう」


 俺とサクラはそれぞれ、6人のグループトークに『付き合うことになりました!』という報告のメッセージを入れた。

 一紗と杏奈もメンバーのグループなのもあり、


『改めておめでとう! そして、これが2人が付き合うことになった証拠』


 という一紗のメッセージの直後に、俺とサクラがキスしている写真が送信された。こうして改めて写真を見るとちょっと恥ずかしい。それから10秒後に、


『忘れられないキスシーンになりましたね。おめでとうございます!』


 というメッセージが杏奈から送信される。一紗と杏奈から改めて祝福の言葉をもらえて嬉しい。2人は今、俺達のように隣同士に座って、スマホの画面を見ているのだろうか。


『凄いキスシーンを撮影したもんだ。速水、桜井、おめでとう!』


 羽柴からそんな祝福のメッセージと、破裂するクラッカーのスタンプが送信された。それを見てかサクラは「嬉しいなぁ」と呟いている。


『文香! 速水君! おめでとう! 恋が叶ったね、文香! 速水君と2人でお幸せに!』


「もう、青葉ちゃんったら。お幸せに、って。結婚するのが決まったみたいだよね」

「ははっ、そうだな」


 あと、『恋が叶ったね、文香!』という一文から、小泉さんはサクラが俺を好きなのを既に知っていたと思われる。


「ひとまず、一緒に報告するのはこのくらいにしておくか」

「そうだね。私の友達にダイちゃんのことを好きだって知ってる友達がいるから、その子には私から伝えておく」

「俺も……サクラが好きだって気づいている友達がいるから伝えようかな」


 羽柴がもう伝えている可能性がありそうだけど。


「ねえ、ダイちゃん。脚、開いてくれない?」

「ああ、分かった」


 どうしたんだろう? いきなりそんなお願いをしてきて。

 サクラの言う通りに両脚を開くと、サクラはスマホをローテーブルに置き、俺の両脚の間に入ってくる。俺と向かい合う姿勢になり、笑顔で俺のことを見つめる。


「親しい人に祝われて良かった。もっと幸せになったよ」

「俺も幸せだよ、サクラ」


 俺がそう言うと、サクラは俺のことをぎゅっと抱きしめてくる。そのことでサクラの優しい温もりや甘い匂い、体の柔らかさを感じる。それらを愛おしく想いながら、俺は両手をサクラの背中に回した。

 サクラは顔を上げると、俺を見つめながらニッコリと笑う。小さい頃から変わらぬ明るさはもちろん、高校2年生の今だから出せる色気も感じられて。とても素敵だ。


「ダイちゃん。大好き」

「俺も好きだよ、サクラ」


 好きな気持ちを伝え合い、サクラからキスしてくる。

 まだ2度目のキスだから、唇が重なった瞬間からかなりドキドキする。サクラの体からも、鼓動がはっきりと伝わってきて。自分と同じなんだと分かって幸せな気持ちが膨らんでいく。気づけば、さっきよりもサクラを強く抱きしめていた。

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