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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
本編-新年度編-
82/202

第49話『健康診断-後編-』

 いよいよ採血のお時間。

 教室の入口付近の壁に『採血』と印刷された紙を見たとき、羽柴は今日一番の顔色の悪さになる。採血会場の教室に入るとさらに悪化。

 スムーズに進めるためか、複数人の看護師さん達によって採血が行なわれている。


「は、速水。先に採血してくれないか」

「ああ、いいぞ」

「次の方、どうぞ」

「じゃあ、行ってくる」


 手を上げている看護師さんのところへ行く。

 俺の採血をしてくれる看護師さんはサクラに似て、セミロングの茶髪で可愛らしい雰囲気の人だ。サクラが大人になると、こんな感じになるのだろうか。


「よろしくお願いします」

「よろしくね。では、右腕を出してクッションの上に置いてください」

「はい」


 看護師さんの言う通り、右腕をクッションの上に置く。そして、目を瞑った。


「ふふっ、目を瞑っちゃって。怖いかな? これまで目を瞑って怖がっている子が何人もいたから」

「いえ、怖くはないんです。ただ、刺されたり、血を抜かれたりするところを見たくなくて」

「なるほどね。針を刺すときにチクッとするだけだから、大丈夫だよ。じゃあ、採血を始めるね」

「はい、お願いします」


 俺がそう言うと、程なくして右腕にチクッと痛みが。そうだそうだ、予防接種とは違って変な感覚になったな。あと、看護師さんがサクラに似ているから、サクラに採血されているようだ。そう思うと、この感覚も悪くない。

 そういえば、サクラも採血したのかな。もし終わっていたら……サクラは大丈夫だろうか。


「はい、終わりましたよ」

「ありがとうございました」


 サクラに似た看護師さんだったからなのか。それとも、2度目で緊張感があまりなかったからなのか。あっという間に終わった感じがする。

 軽く貧血になったときのような感じだけど、このくらいならすぐに治ると思われる。


「だ、大丈夫ですか!」


 俺に採血してくれた看護師さんとは別の女性の看護師さんの声が聞こえた。……まさか。

 その看護師さんの声がしたところに行くと、羽柴がガクガクと体を震わせていた。羽柴を担当している赤髪ロングヘアの女性看護師さんは戸惑っている様子。


「やっぱり。こいつ、何日か前から採血のことで不安になっていたんです。俺も一緒にいてもいいですか? 去年もついていたんですよ。俺はもう終わっているので」

「分かりました」

「ありがとうございます」


 去年と同じように、羽柴が採血されている間は側にいることにしよう。

 俺は後ろから羽柴の両肩を掴む。


「羽柴、ここまで来たらちゃんと採血受けるぞ。俺も採血したけど、ちょっとチクッとしただけで、目を瞑っていればあっという間だから」

「そ、そうなのか」

「それに、この看護師さん……お前の推しキャラの真夏先生に雰囲気が似ていないか?」


 真夏先生は赤髪のロングヘアが特徴的な日本史の教師キャラクター。髪だけでなく、綺麗な顔立ちで、凜々しさも感じられる雰囲気もこの看護師さんに似ている。


「……た、確かに。赤髪のロングヘアだ……」


 羽柴は目の前にいる女性看護師さんを見つめる。だからか、看護師さんはほんのりと頬を赤くする。


「なあ? 髪の色も一緒だし、綺麗で凜々しい顔立ちだろう? 声も真夏先生にちょっと似ているし。今から、羽柴はあの大好きな真夏先生に採血をしてもらうと思えばいい。何だか悪くない気がしてきただろう?」

「……ちょっとだけ怖さがなくなってきたかも」

「さすがは羽柴だ。去年と同じように、肩を押さえておいてやるから。さあ、右腕を出してクッションの上に置くんだ」

「あ、ああ」


 段々と体の震えがなくなってきた後、羽柴は右腕をクッションの上に置いた。


「羽柴、深呼吸をして気持ちを落ち着かせよう」

「ああ」


 俺の言う通りに羽柴は深呼吸。すると、体の震えはほとんどなくなった。顔色もさっきに比べればちょっとマシになっている。


「よし、羽柴。目を瞑ろう。それだけでも怖さが軽減されると思う」

「そ、そうだな」


 羽柴はゆっくりと目を瞑った。


「看護師さん。彼の採血をお願いします」

「分かりました」


 赤髪の看護師さんは採血用の注射器を手に取り、注射針を羽柴の右腕に刺す。痛みを感じたのか、羽柴は「あぁっ」と声を出す。

 羽柴の体が震えだしたので、俺は両肩をぎゅっと掴んで、


「大丈夫だ、羽柴。最大の山場は越えた。あとは血を抜くだけだから」

「そ、そそそうだな。ひ、ひ……必要な分だけ抜いてください。できるだけ早く、優しく、痛くなく!」

「ふふっ、分かりました。それにしても、黒髪のあなたは凄いですね。さっきの恐がりようは凄かったですから、あなたのことが催眠術師に見えてしまいます」

「ははっ、催眠術師だなんて。俺はただの高校生で、彼の親友ですよ」


 ただ、羽柴に色々と指示をし、気分を落ち着かせたので、この看護師さんには催眠術師のように見えたのかもしれない。


「そうですか。いい親友をお持ちですね。力を抜いてくださいね。血を抜いていきますので」


 そして、注射の管の中に羽柴の血が抜かれていく。変な感覚に陥っているのか、羽柴は小さな声で「あぁ……」と声を出し続けている。


「なぁ……速水。ちゃんと血は抜かれているのか? な、長くね?」

「ちゃんと注射の中に血が溜まっていっているから安心しろ。見た感じあと少しで終わる」

「そうなのかぁ。早く終わってくれぇ……」


 悲痛な声でそう言う羽柴。

 羽柴がこんなことを言っているにも関わらず、赤髪の看護師さんは微笑んでいる。注射を怖がる人にたくさん接してきたのかな。


「はーい、採血終わり! よく頑張りましたね!」


 そう言うと、赤髪の看護師さんは注射針を抜いて、刺した場所に小さな絆創膏を貼る。

 羽柴はゆっくりと目を開けて、右腕に貼られている絆創膏の部分を見る。すると、羽柴はほっと胸を撫で下ろし、微笑んだ。


「な、何とか乗り切ったぜ、速水」

「よく頑張ったな、お疲れさん」

「黒髪のお友達に感謝した方がいいですよ」

「本当にありがとな、速水。できれば、来年の採血のときも頼む」

「同じクラスになったらな」


 こいつ、俺が側にいないと採血を受けられない体になりそうで怖い。もし、3年生で別のクラスになったら、自分で採血を乗り切る方法を考えてやらないと。


「そういえば。去年は女子の方を担当していたんです。採血をしている間、怖いからか背後からずっと友達に抱きしめられている女の子がいましたね。確か……抱きしめられている子は茶髪で、抱きしめている子は青髪のポニーテールだったかと」

「そ、そうですか」


 それって、もしかしたらサクラと小泉さんかもしれないな。2人とも、入学してすぐに仲良くなっていたし。


「羽柴。立てるか?」


 俺がそう問いかけると、羽柴はゆっくりと立ち上がろうとする。お尻が椅子から離れた瞬間に少しよろめく。そんな羽柴に俺は肩を貸す。


「今年もすまないな、速水。体にあまり力が入らなくてさ」

「なあに、気にするな。採血、よく頑張ったな。俺がお前の用紙を持っているから、次の検査に行こうぜ」

「ああ、すまない……」


 羽柴から用紙を受け取り、俺は羽柴と一緒に採血の部屋から出る。記入用紙を見ると、残りはレントゲン撮影だけかな。去年も最後はレントゲンだったな。

 順路に従って進んでいくと、俺達は屋外に駐車されているレントゲン車の待機列に辿り着いた。その最後尾に並ぶ。


「なあ、速水。さっき……目を瞑っているとき、ナース服姿の真夏先生が思い浮かんだ」

「それは良かったな」

「でも、その真夏先生も注射針を持っていて、右腕に痛みが走った瞬間に先生も注射針を刺してきたんだ。ちょっとだけ先生が怖くなった」

「す、すまなかったな。俺が看護師さんを真夏先生だと思えばいいと言ったから」

「いや、いいんだ。ああいう風に言ってくれなければ、俺は落ち着かなかったと思うから。実際に真夏先生が採血してくれたら怖くないかもしれない。それよりも、採血が終わったから今は開放的な気分だぜ……」


 ははっ……と羽柴は力なく笑う。とにかく、羽柴も何とか採血できて本当に良かった。

 周りを見てみると、別のレントゲン車の列にサクラ達が並び始めたのが見えた。サクラは小泉さんと肩を組んでおり、前に並んでいる一紗の体操着を掴んでいた。おそらく、採血して気分が悪くなったんだろうな。顔色が良くないし。


「サクラ、一紗、小泉さん」


 俺がサクラ達の名前を呼ぶと、3人はこちらに振り向く。一紗と小泉さんは元気良く手を振ってくるけど、サクラは小さく手を振るだけだった。採血で体力を奪われたのかな。

 それから15分ほど並んで、レントゲンを撮影。これで全項目が終了し、今年の健康診断が終わった。

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