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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
本編-新年度編-
63/202

第30話『先輩と後輩』

 午後1時を過ぎ。

 午後からシフトに入っている方が来たため、俺と杏奈、百花さんはスタッフルームに戻って休憩に入る。お昼時なので、キッチン担当の方が作ってくれたまかないを3人で食べることに。


「杏奈、お疲れ様。2時間近くカウンターにいたけど、よく頑張ったな」

「杏奈ちゃん、お疲れ様! まかないを食べながら長めに休憩しようか」

「分かりました。先輩方もお疲れ様です。接客って緊張しますね。でも、次々とお客さんが来るのであっという間に時間が過ぎていきますね。途中、友達が来てくれて嬉しかったです。あと、大輝先輩のおかげで何とかなった場面もありました。先輩方って凄いです。お客としてはたくさん来ていますけど、店員の立場になってそれが分かりました。とってもリスペクトですっ!」


 杏奈は目を輝かせながらそう言ってくれる。

 あと、とってもリスペクトって初めて聞いたな。最近の流行っている若者言葉だろうか。俺と1学年が違わないけど。というか、若者言葉ってとても年配言葉な響きだ。……何だか、杏奈とかなりの年齢差を感じてきたぞ。

 それにしても、先輩方って凄い……か。俺も新人の頃に同じことを何度も思ったなぁ。


「あたしは別の店舗を含めたら今年で5年目だからね。大輝君も今はしっかりとやれているけど、最初は凄く緊張していたんだよ」

「そうでしたね。新人の頃の俺に比べれば、杏奈はよくできてるよ」

「ありがとうございます。午後もよろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」


 俺がそう返事すると、杏奈は可愛い笑顔になってハンバーガーを頬張る。その姿は、今まで何度もカウンターから見えていたものだった。

 スマホを確認すると、LIMEを通じてサクラと一紗からそれぞれメッセージ1通ずつが届いていた。サクラの方はスタンプも送られている。まずはサクラから。30分以上前に来ている。


『杏奈ちゃん、マスバーガーでバイト始めたんだね! ダイちゃんの影響かもね。先輩として、杏奈ちゃんにお仕事教えていくんだよ。頑張ってね!』


 というメッセージと、『がんばれ!』という文字付きの白猫スタンプが送られていた。これだけで、残りのバイトを頑張れそうだ。

 次に一紗のメッセージ。20分ほど前に来ている。


『先輩として働く大輝君の姿も素敵だわ。小説を書いて、コーヒーを楽しみながら、たまにあなたの姿を見ることにする。バイト頑張って』


 サクラと遜色なくいいメッセージだ。

 杏奈をお持ち帰り注文するほどなので、一紗は何度かカウンターに来るのかと思っていた。けれど、実際はホットレモンティーを頼みに一度来ただけ。それ以外はお手洗い以外ではずっとカウンター席にいて、たまにこちらを見る程度。午後もカウンター席から見守ってくれると嬉しいな。

 2人には『ありがとう、バイト頑張るよ』と返信しておいた。もう1時を過ぎているので、サクラには『バイトお疲れ様』とも。


「大輝先輩。桜井先輩からメッセージが届いてました。桜井先輩は今日スーパーのバイトをやっているんですね。あと、バイト頑張ってと」

「フロアに行く前の休憩時間に俺がメッセージを送ったからな」

「なるほどです。あと、大輝先輩と百花先輩に頼るといいよって」

「そうなんだ。俺が指導係なのも伝えたし、サクラは百花さんのことを知っているからね。サクラの言う通り、先輩達を頼ってくれ」

「はい!」


 明るい笑顔で、杏奈はいい返事をしてくれる。

 接客の際も今のような笑顔を見せ、はっきりとした声を出していた。だからか、何度かお客様から『新人さん、頑張ってね』といった言葉をいただいた。百花さんのように、杏奈にもファンがつくんじゃないだろうか。


「あの緊張していた大輝君がねぇ。1年近く経って……本当に立派になられて」

「め、目に涙を浮かべて何を言っているんですか、百花さん」


 そういう反応をされると、褒められているだけじゃなくて、馬鹿にされているようにも感じるけど。まあ、新人の頃は実際に緊張していたし、それが原因のミスも何度もやらかしたからな。そう考えると、百花さんが涙を浮かべるのも分からなくはない……かな?


「最初に見た頃の大輝先輩は緊張した感じだったのは覚えてます。あたしには今みたいに、落ち着いた雰囲気で接客していましたけど」

「確かに……そうだったね」

「背が小さくて、年下に見えたからとか?」

「……歳が近い人だとは思ったからね。姉やサクラの影響で、歳の近い女性と接することは多くて、慣れているんだ。2人の友達には俺よりも年下の妹もいたし」

「なるほどです」


 杏奈は納得した様子でサラダを食べる。

 あと、杏奈は明るくて可愛らしいし、髪型がショートボブなので昔のサクラと重なる。だから、新人の頃から杏奈には落ち着いて接客できたのかもしれない。百花さんの隣で美味しそうにまかないを食べる今の姿も、昔のサクラっぽくて可愛い。

 午後も先輩らしく振る舞いながら、杏奈と一緒にバイトを頑張っていくか。そう思いながら、チーズバーガーを頬張るのであった。




 休憩後は接客だけでなく、フロアの掃除やゴミについても杏奈に教えていく。接客のときも思ったけど、杏奈は物覚えが早いなぁ。

 フロアの掃除をしているとき、カウンター席でゆっくりとしている一紗と話す。外でどうやって執筆しているのか尋ねると、タブレットにインストールされている文書作成ソフトを使用している。文字の打ち込みはタブレット用のワイヤレスキーボードを使っているため、家と執筆しているときと同じくらいの速さで執筆できるらしい。

 落ち着いた様子でキーボードを操作し、たまにホットコーヒーを飲む一紗の姿はとても大人らしい。私服姿なのもあってか、大学生や若手の社会人にも見える。これから、バイトをしているときはこういう一紗の姿を見られるようになるのかな。

 また、今の一紗の姿には杏奈も、


「大人っぽくて素敵ですね」


 と好評価。姿だけ見ていると、自分をお持ち帰りしたいと言う人とは思えないとか。それには俺も頷いた。

 あと、小説執筆の話を聞いた際に、一紗が文芸部の生徒であることや「文学姫」と呼ばれていること、クラスメイトの一部の男子が一紗に憧れていることを思い出したそうだ。部活説明会で文芸部の一員として登場したのをきっかけに、一紗に興味を持つ男子はいそうだな。あと、文学姫の異名は早くも1年生に広がっているのか。さすがは一紗。




 今までとは違い、杏奈に仕事内容について色々なことを教えたからか、あっという間にバイト終わりの午後3時となった。

 バイトがあって疲れているのだろうか。サクラは来てくれなかったな。


「3人とも、お疲れ様」

『お疲れ様です』

「杏奈君は今日が最初のバイトだったけど、どうだったかな」

「接客のときは特に緊張しましたけど、先輩方が教えてくださったので何とかできました。特に大輝先輩」

「それは良かった。大輝君を指導係に指名して正解だったね」


 どうしてそれをちょっと得意げに言うんですかね、店長。大半は俺が仕事内容を教えたんですけど。

 休憩を挟んで5時間のバイトは杏奈にキツいかなと思ったけど、杏奈は今も明るい笑顔を浮かべている。そのことに一安心。


「杏奈君。これからしばらくの間は、大輝君と一緒に仕事をしてもらおうかな。来週は……大輝君は火曜日と木曜日と日曜日だね」

「火、木、日ですね」


 そう言うと、杏奈はスマホを手にする。俺みたいにカレンダーアプリとかに、予定を書く習慣があるのかな。


「どの曜日も特に予定は入っていません」

「では、来週は火曜、木曜、日曜にシフトに入ってもらうね」

「はい! 火曜と木曜は一緒に行きませんか? 大輝先輩」

「ああ、分かった」


 火曜日と木曜日は放課後になってからすぐにバイト始まるので、杏奈と一緒に行った方がいいか。

 これからの杏奈のシフトも決まったので、俺達3人の今日のバイトはこれにて終了。ロッカールームで私服に着替え、従業員用の出入り口からお店の外に出る。


「バイトお疲れ様でした、ダイちゃん、杏奈ちゃん、百花さん」

「お疲れ様でし……た」


 金曜日と同じように、出入り口を出たところにサクラと一紗が待ってくれていた。お店にずっといた一紗はまだしも、サクラが待ってくれているとは思わなかったな。


「って、一紗。どうしたんだ?」

「そ、そちらの黒髪ワンサイドアップの女性も一緒だから。確か、小鳥遊さんの隣のレジを担当していたわよね?」


 一緒に出てきたから、百花さんが単なるバイト仲間ではないと思ったのかな。


「そうだよ。合田百花さん。去年、俺にバイトの指導をしてくれた方だよ。日本芸術大学に通っている2年生なんだ」

「そちらの黒髪の子は、午前中の接客中に小耳に挟んだから覚えているよ。大輝君のクラスメイトの麻生一紗ちゃんだよね」

「そ、そうです。麻生一紗といいます」

「合田百花です。よろしくね! バイト中に思っていたけど、凄く綺麗な子だね!」

「……どうもありがとうございます」


 快活な笑みを浮かべ、百花さんは一紗と握手を交わす。

 年上の女性に綺麗だと笑顔で言われたことが嬉しいのか、一紗は頬をほんのり赤くしながら微笑む。この様子なら2人は仲良くなれそうかな。


「サクラもバイトお疲れ様。俺はこれから、杏奈の歓迎会をするために百花さんの家に行くんだ。夕飯までには帰ってくるよ」

「そうなんだね。分かったよ、ダイちゃん」

「もしよければ、文香ちゃんと一紗ちゃんも一緒にうちに来ない? 女子高生がたくさん来てくれるのは大歓迎だよ。特に2人みたいな素敵な子なら」

「行きます!」


 一紗は元気な様子で右手をピンと挙げる。それとは対照的にサクラは笑顔こそ見せているものの、申し訳なさそうにしている。


「予定はないので、私はかまいませんけど……いいんですか? マスバーガーの店員じゃないですし。あと、主役は杏奈ちゃんですけど」

「桜井先輩なら全然OKですよ! 麻生先輩も……大輝先輩や桜井先輩のご友人だそうですから、まあ……いいですけど」


 一紗から視線を逸らしながら言う杏奈。どうやら、接客したときのお持ち帰り発言が影響していそうだ。それでも、歓迎会にいてもいいと言われたからか、一紗は嬉しそう。


「ありがとう、杏奈ちゃん。あと、私のことも名前で呼んでくれていいよ」

「私の方も名前で呼んでくれてかまわないわよ、杏奈さん」

「分かりました。文香先輩に……か、一紗先輩」

「うんっ! 名前呼びいいね! 杏奈ちゃんがもっと可愛く思えてきたよ」

「可愛いわよね、杏奈さん」

「……えへへっ」


 サクラと一紗に可愛いと言われたからか、杏奈は照れくさそうに笑う。お客様時代から杏奈の笑顔は何度も見てきたけど、今のような姿はあまりないので新鮮だ。


「あぁ、笑い合う女子高生3人。凄くいいなぁ」


 百花さん、うっとりとしながらサクラ達のことを見ている。もしかして、今のような3人の姿を見たいから、サクラと一紗も家に来ていいと言ったのだろうか。百花さんはかなりの百合好きだし。自宅で見られたら最高だもんな。あなた、三次元の女性で妄想するタイプですか?

 5人で百花さんの自宅に向かって歩き始める。当初の予定から2人増えたことで、杏奈の歓迎会はどうなることやら。

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