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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
本編-新年度編-
57/202

第24話『幼馴染と後輩』

「速水先輩。こんにちは~」


 受付の近くには私服姿の小鳥遊さんが。俺と目が合うと、小鳥遊さんは頭を下げ、ニッコリとした笑顔になってこちらに手を振ってくる。そして、猫に気を配っているのか、足音を立てずに俺達の目の前までやってきた。

 バイト中に接客するとき以外に小鳥遊さんと会うのは初めてだから、何だか新鮮だ。


「こんにちは、小鳥遊さん」

「こんにちは。先輩は隣に座っているそちらの女性と一緒に来たんですか?」

「ええ。今日は彼女と2人で四鷹駅周辺のお店を廻っているんです……じゃなくて、しているんだ。今はバイト中じゃないし、小鳥遊さんは学校の後輩だって分かったし、敬語じゃなくていいのかな」


 今まで、小鳥遊さんには接客の際に敬語でしか話していないから、何だか違和感がある。

 小鳥遊さんは「ふふっ」と笑う。


「あたしはどちらでもかまいませんよ。ただ、敬語じゃない速水先輩もいいなって思います」

「……じゃあ、とりあえずは先輩らしく話すよ。隣にいる彼女は、俺の幼馴染でクラスメイトの桜井文香だ。それで、サクラ。彼女がこの前話したマスバーガーによく来てくれる小鳥遊杏奈さんだよ。今年、四鷹高校に入学したんだ」

「そうなんだね。初めまして、2年3組の桜井文香です」

「初めまして、小鳥遊杏奈といいます。1年5組です。よろしくお願いします」

「うん、よろしくね」


 サクラは優しい笑顔で右手を差し出すと、小鳥遊さんは可愛らしく笑ってサクラと握手を交わす。こうしていると、サクラが先輩らしく見える。


「杏奈ちゃんは1人で来たの?」

「はい。実はこの後、四鷹第一中出身のクラスメイトの家に遊びに行く予定があって。お昼ご飯も食べるので、正午過ぎに駅で待ち合わせしているんです。なので、午前中は暇で。中学から一緒の友達は猫があまり好きじゃなくて。ですから、30分間猫ちゃんと戯れようと思ってここに来たんです。あたし、猫が好きで、ここには何度も来たことがあるので」

「私もだよ。ダイちゃんも猫好きだから今日は一緒に来たの」

「そうだったんですね。隣、失礼しますね」


 柔らかな声色でそう言うと、小鳥遊さんは俺の隣に座った。その瞬間、サクラとはまた違った甘い匂いが香ってくる。

 あと、座るなら俺よりもサクラの隣の方がいいんじゃないだろうか。そう思ってサクラの方を見ると、サクラの隣でキジトラ猫がゴロゴロしていた。……なるほど、だから小鳥遊さんは俺の隣に座ったのか。そういう事情を察したのか、サクラも特に怒ったり、不満そうだったりする様子は見せない。


「にゃん、にゃ~ん」


 小鳥遊さんの足元には、クリーム系の毛色のマンチカンが擦り寄っている。ここに何度も来たことがあるそうだし、このマンチカンは小鳥遊さんを気に入っているのかな。ただ、マンチカンは手脚の短い種類。小鳥遊さんの脚を登ることはできないだろう。


「あっ、君か。今日もあたしの膝の上に乗りたいのかな?」

「にゃん」

「ふふっ、いいお返事だね。じゃあ、あたしの膝に乗せてあげよう」

「にゃんっ!」


 俺の予想通り、どうやらこのマンチカンは小鳥遊さんを気に入っているようだ。

 小鳥遊さんはマンチカンの胴体を掴んでゆっくり持ち上げ、自分の膝の上に乗せる。腹ばいの状態になるマンチカンの頭から背中に掛け、小鳥遊さんはゆっくりと撫でる。猫の扱いに慣れている感じがする。


「にゃぉん」

「にゃんにゃん。いい子いい子。猫って可愛くて癒されますよね~。癒しの神的存在ですよ」

「それ分かるかも。見るだけでも癒されるし、触るともっと癒されて」

「ですよね!」


 2人ともここに何度も来たことがあるからか、さっそく意気投合しているな。あと、猫が癒しの神のような存在なのは納得だ。そう思いながら、今、俺の膝の上にいる黒白のハチ割れ猫の背中を優しく撫でる。


「ただ、杏奈ちゃんも凄く可愛いよ。前にマスバーガーで見たときにも思ったよ。顔はもちろん、声も可愛らしいし。ショートボブの金髪もよく似合ってる」

「えへへっ、嬉しいですね。桜井先輩もかわいいですよ。中学の頃にマスバーガーで桜井先輩を何度か見かけたことがありますけど、かわいいなぁって思ってました」

「ありがとう。ところで、杏奈ちゃんの髪は地毛なの? 凄く綺麗だけど」


 サクラがそう言うので小鳥遊さんの髪を見ると……艶のある綺麗な金髪だ。触ったらとても柔らかくて気持ち良さそう。そんなことをしてはいけないので、代わりにハチ割れ猫の頭を撫でる。お前の毛、柔らかくて気持ちいいな。

 ふふっ、小鳥遊さんは快活に笑う。


「これは地毛ですよ。母が金髪、父は黒髪なので、この髪は母譲りですね」

「へえ、そうなんだ」

「思い返すと、小鳥遊さんの髪は前からずっと綺麗な金髪だな。地毛ならそれも納得だ」

「覚えていてくれたんですね」

「これまで何度も接客しているからね。話すときもあるし。一番話しているお客さんじゃないかな」

「……そうなんですね」


 頬をほんのりと赤くし、小鳥遊さんは俺の目を見て微笑む。最初に接客した頃以外は基本的に明るい笑顔で接してくれるので、今みたいな笑顔は新鮮で可愛らしい。


「そ、そういえば杏奈ちゃん。入学して1週間くらい経ったけど、高校には慣れてきた?」

「はい! クラスで友達ができましたし、授業も始まったばかりなので今のところは大丈夫ですね」

「それは良かった。困ったことがあったら、いつでも私達に連絡してね」

「ありがとうございます!」

「……ちなみに、部活については決めた?」

「いえ、特にはまだ。昨日の放課後に、友達と一緒にいくつか回りましたけど」

「そうなんだ。もし良かったら、手芸部に来てね!」

「か、考えておきますね」


 小鳥遊さんは苦笑いをしながらそう言った。こんなに可愛くて明るい後輩と知り合ったら、サクラも自分の入っている部活に勧誘したくなるか。

 すると、小鳥遊さんははっとした表情に。


「学校で桜井先輩の姿を見たことがあると思っていたんですけど、手芸部と聞いて思い出しました。部活説明会に参加されていましたよね。猫耳カチューシャを付けて」

「思い出してくれて嬉しいよ。あれは部長のアイデアでね。私は手芸部で作ったぬいぐるみを持ったり、エプロンを着たりすればいいんじゃないかって言ったんだけどね。カチューシャはさすがに恥ずかしくて。でも、私の猫好きは部員のみんなに知られていたし、カチューシャが似合いそうだから、部長と副部長に猫耳カチューシャを付けて説明会に出てって言われちゃって」


 部活説明会のときのことを思い出しているのか、サクラの頬が赤くなる。

 なるほど、そういういきさつがあったとは。サクラには悪いけど、手芸部の部長さんと副部長さんは英断を下してくれた。


「そうだったんですか。凄く似合っていましたよ! 手芸部の説明の直後もそうですけど、教室に帰ってからも、手芸部の先輩達が可愛かったって話題になりましたし」

「まあ、そういうことで話題になったなら、カチューシャを付けて良かったかな。ダイちゃんも可愛いって言ってくれたし……」

「似合っていたよ、サクラ」

「……ありがと」


 俺のことをチラチラと見ながらはにかむサクラ。

 今のサクラも可愛いけど、説明会のときの猫耳サクラはとても可愛かったな。段々とドキドキしてきた。頬が熱くなってきているから、サクラと同じように顔が赤くなっているかもしれない。もしそうだったら恥ずかしい。小鳥遊さんもいるから。

 小鳥遊さんの方を見ると、真剣そうな様子で俺達のことを見ている。


「……あの、先輩方。ここに来たときから気になっていたことがあるんですけど」

「何かな、小鳥遊さん」

「……先輩方って付き合っているんですか?」

「ほえっ?」


 サクラはそんな可愛らしい声を漏らすと、見る見るうちに顔を赤くしていく。視線をちらつかせて、自分の膝の上に乗っている白猫を激しく撫でる。

 まさか、小鳥遊さんからそんなことを言われるとは思わなかったので、体が熱くなって心臓がバクバクしている。確実に顔が赤くなっているだろう。


「ど、どうしてそう思うのかな、杏奈ちゃん」

「お店に入ったとき、先輩方はとても仲睦まじそうにしていましたから。猫ちゃんパワーがあるかもしれませんが、2人ともいい笑顔になっていましたし。『ダイちゃん』『サクラ』と互いにニックネームで呼んでいますし。あとは休日に男女2人で出かけているのですからデートかなって。だから、先輩方は付き合っているのかと。まあ、今の時代、同性のケースも普通にありますけどね……」


 落ち着いた声色でそう話すと、小鳥遊さんは俺達に向けていた視線を少し下げ、どこか寂しげな笑顔を見せる。

 今の小鳥遊さんの話を聞くと……サクラと俺が付き合っているんじゃないかと考えてもおかしくないな。

 こほん、とサクラは可愛らしく咳払いをすると、俺と小鳥遊さんのことを見てくる。気持ちが落ち着いてきたのか、さっきよりは顔から赤みが引いていた。


「なるほどね。恋人かもって思う理由は分かったよ。ただ、さっきダイちゃんが紹介したとおり、私達は幼馴染なんだ。父親の転勤もあって、ダイちゃんと一緒に住んでるの。親同士が学生時代の友人だから、物凄く小さい頃から会ってる。一緒にいるようになったのは、私が四鷹に引っ越してきた幼稚園の頃からだけど」

「へえ、そんなに長い付き合いが」

「うん。昔から、一緒に四鷹駅周辺へお出かけすることが多いの。訳あって、一緒にお出かけしない時期があったから、今日はひさしぶりで。ただ、デートに見えちゃうよね。……実際にデートっぽいかな」


 笑顔でそう言うサクラ。パールヨタカで羽柴に「デートか?」と聞かれたときとはちょっと違った答え方だ。タピオカドリンクを飲んだり、猫カフェで一緒に楽しんだりしてデートしているような気分になってきたのかも。

 今のサクラの説明に納得したのか、小鳥遊さんは元の可愛らしい笑顔を見せてくれる。


「なるほどです。それなら、幼馴染でも2人きりでお出かけすることもありますよね。本当に仲良く見えたので、カップルかと思っちゃいましたよ~」


 あははっ、と快活に笑う小鳥遊さん。


「あと、同居し始めた2年生の先輩っていうのはお二人だったんですね。昨日、同中出身の友達から聞いたんです。その友達が仮入部している女バスには同中出身の先輩がいて。その方の友人のクラスメイトが同居し始めたと」

「そういえば、うちのクラスに女バスの子は何人かいたね」

「……い、いたような気がする」


 自己紹介から数日が経っているからか、全然話さないクラスメイトのことを中心に自己紹介の内容を忘れ始めている。顔を見れば名前くらいは思い出せる……と思う。

 うちのクラスは部活に入っている生徒が多い。だから、部活を通じて、他学年の生徒にもサクラと俺が同居している話が広まっているのだろう。木曜日からは1年生の仮入部期間もスタートしているし。特に中学と同じ運動系の部活なら、そこに中学時代から付き合いのある先輩がいる可能性はある。


「じゃあ、友達には先輩方は同居している幼馴染同士だと伝えておきますね」

「そうしてもらえると助かるよ」

「変な噂を立てられたら嫌だもんね」

「そうだな」


 先日サクラに告白した中村みたいに、俺がサクラに変なことをしていると思う奴もいそうだし。


「了解です!」


 ニッコリと笑い、右手で敬礼のポーズをしてくる小鳥遊さん。これまでとキャラがちょっと変わったと思ったけど、今までは俺がバイトの接客中に会っていたんだ。もしかしたら、今の小鳥遊さんが自然体なのかもしれない。もちろん、どちらも可愛らしいけど。


「にゃんっ!」


 小鳥遊さんの膝の上に乗っているマンチカンが、ゆっくりと右手を挙げる。その姿が可愛らしくて、俺達3人は声に出して笑う。


「もしかしたら、あたしの真似をしたのかもしれないですね」

「もしそうなら敬礼には程遠いな」

「マンチカンは脚が短いもんね。でも、そこが可愛いよね。写真撮りたくなってきた。杏奈ちゃんと一緒の写真も撮っていい?」

「もちろんです! この猫ちゃんとの一緒の写真がほしいので、連絡先を交換してくれませんか? 速水先輩も」

「いいよ!」

「ああ、分かった」


 それから、俺とサクラは小鳥遊さんと連絡先を交換し、小鳥遊さんと3人で猫と戯れるのであった。

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