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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
本編-新年度編-
49/202

第16話『お弁当』

 4月9日、木曜日。

 今日から授業が開始し、2年生としての学校生活が本格的にスタートする。よく晴れているので、いい幕開けになるんじゃないだろうか。これからの1年間をサクラ達と同じクラスで過ごせるから、自然と気分が高揚としてくる。


「ダイちゃん、気分良さそうだね。授業が楽しみなの?」


 俺の隣を歩くサクラが笑顔で訊いてくる。可愛いな。


「まあ、それなりに。勉強は嫌いじゃないから。それに、今年もサクラ達と一緒に授業を受けられるのが嬉しくてさ」

「ダイちゃんも青葉ちゃんも羽柴君も2年連続で同じクラスになったもんね。今年は一紗ちゃんもいるし。私の前の席には青葉ちゃんがいるからね」

「自分の前の席に親友がいるっていいよな」

「うんっ! 私もちょっと授業が楽しみになってきた」


 サクラはさらに可愛い笑顔になる。

 例年と違って、気持ちが高ぶる一番の理由はサクラと仲直りできたことだ。サクラとの関係に亀裂が入った出来事は中2の始業式の日だし、中1のときは別々のクラスだった。だから、サクラと仲がいい状態で、同じクラスで過ごすのは小6以来になるのか。5年ぶりだって考えると、もっと気分が上がってくる。


「授業もそうだけど、お弁当を楽しみにしてくれると嬉しいな。今日のお弁当で私が作ったおかずはハンバーグだけなんだけどね」

「楽しみにしているよ。春休みに作ってくれたハンバーグも美味しかったんだし」


 元々は母さんが今朝作る予定だったけど、昨日の夕食が終わった後にサクラがハンバーグを作ると申し出たのだ。朝早く起きてちゃんと作れるかどうか不安だったそうで、昨日の夜にタネ作りを行ない、今朝焼いたとのこと。


「美味しくできているといいな。中学までは給食だったし、お弁当用にハンバーグを作ることはほとんどなかったから」

「きっと美味しいだろう。この前のお花見のハンバーグだって美味しかったんだから」


 サクラの料理の腕前は確かなものだ。きっと、美味しいハンバーグになっていると思う。サクラの手作りハンバーグだけで、午前中の授業は乗り越えられそうだ。

 3年間のわだかまり期間中も、特に高校生になってからはサクラとこうして一緒に登校する日は多かった。でも、学校に向かう足取りは、今までの中で最も軽やかな気がした。



 昨日の放課後、サクラは中村という男子生徒からの告白を振った。なので、周りの生徒がサクラのことをどう見るのか不安がある。

 ただ、今のところ、サクラに嫌悪感のある視線を向ける生徒はいない。むしろ、好奇な視線を送る生徒がいるほどだ。俺と一緒に住んでいて、幼馴染としての仲が良好であるという話が広まっているのだろうか。こちらを見ながら話している生徒もいるし、俺とサクラが付き合っていて同棲しているって勘違いする生徒もいそうだな。いつかは、本当にそうなる形で、勘違いを解消したいものだ。

 何にせよ、これからも平和な時間が過ごせそう。中村は2年7組で、教室はこことは別の第2教室棟にあるし。仮に彼がうちの教室に来ても、ここには俺と一紗、小泉さん、羽柴がいる。他にも去年までに仲良くなった友達もいるし。そのときはみんなで守ろう。

 また、朝礼が始まるまでの間に、サクラと一紗、小泉さんから昼休みは一緒にご飯を食べようと誘われた。もちろん、俺と羽柴はそれを受け入れる。昼休みがより待ち遠しい。



 木曜日の時間割は全て教室で行なわれる教科。

 もちろん、どの教科も初回の授業。なので、担当する先生の自己紹介と学生時代の話や、この教科でどんなことを学ぶのかというざっくりとした説明で留まった。流川先生の日本史Bもあったけど、先生は大河ドラマや歴史系の漫画について熱弁していた。どの先生の話も結構楽しく、午前中の授業はあっという間に終わった。



 そして、昼休み。

 一紗の席は窓側の先頭。窓側から3列目の先頭と2番目が、小泉さんとサクラの席。なので、窓側から2列目の先頭と2番目の席を借りることに。3人のおかげで、先頭に座る男子生徒も、2番目に座る女子生徒も快く貸し出してくれた。

 席を動かして、女子3人は自分の席、羽柴は小泉さんの隣、俺はサクラの隣の席に座った。なので、右隣にサクラ、左斜め前に一紗が座る形に。学校でサクラと隣り合ってお昼ご飯を食べるのは何年ぶりだろう。

 俺、サクラ、一紗、小泉さんはお弁当で、羽柴はコンビニで買ったサンドイッチと菓子パンを一つずつ。ちなみに、大食いの一紗と小泉さんのお弁当箱は、俺のお弁当箱とさほど変わらない大きさだった。月曜日や火曜日の食べっぷりを見ていると、それで足りるのかと疑問に思う。


「それじゃ、いただきまーす!」

『いただきます』


 小泉さんの号令で、俺達は昼食を食べ始める。

 蓋を開け、最初に目に飛び込んだのは、サクラが作ったミニハンバーグ。2つ入っており、少量のデミグラスソースが乗せられている。……凄く美味しそうだ。


「おっ、文香と速水君のお弁当……量が違うだけで入っているラインナップは同じだ」


 向かい側に座っているからか、小泉さんは俺とサクラの弁当について気付いた。


「こういうことでも、速水と桜井が一緒に住んでいるって分かるな」

「えへへっ、優子さんがお弁当を作ってくれたからね。ただ、ハンバーグだけは私が作ったんだよ」

「へえ、そうなんだ。お花見のときに食べたハンバーグも美味しかったし、一口でいいからちょうだい! 私の唐揚げを1つあげるから」

「文香さん。私にもくれないかしら。玉子焼きを1つあげるわ」

「じゃあ、2人に半分ずつあげるね」


 サクラは弁当箱の蓋の上にハンバーグを乗せ、箸で上手に2等分する。切り分けたハンバーグを一紗と小泉さんそれぞれのお弁当の蓋に。2人は「ありがとう」とお礼を言うと、それぞれ玉子焼きと唐揚げをサクラの弁当箱の蓋の上に乗せた。


「じゃあ、さっそく文香特製のハンバーグを食べよっと」

「私もいただくわ」

「……俺も食べようかな」

「お、美味しくできているといいな。特にダイちゃんのお口に合うと嬉しい」


 ドキドキした様子でそう言うと、サクラは俺のことをチラチラと見てくる。そんなサクラが可愛いので、このまま食べずに見ていたいけど、今はハンバーグを食べたい気持ちの方が勝る。


「……いただきます」


 小さな声でそう言い、俺はサクラが作ってくれたハンバーグを食べる。ミニサイズだけど半分くらいのところをかじった。

 春休みに食べた作りたてのハンバーグほどじゃないけど、噛めば噛むほど肉の旨みが口の中に広がっていく。デミグラスソースとの相性も抜群だ。冷めていても美味しい。さすがはサクラ。


「とても美味しいよ、サクラ。好物だから凄く嬉しいよ」

「……良かったぁ」


 サクラは安堵の笑みを浮かべ、ほっと胸を撫で下ろした。朝、お弁当用のハンバーグを作ったことはほとんどないって言っていたな。先日、お花見のときに食べたハンバーグを作ったとはいえ、緊張していたのだろう。


「美味しいね。さすがは文香」

「とても美味しいわ」


 小泉さんと一紗にも好評のようだ。そのことにサクラはとても嬉しそうにしていた。俺も近いうちにおかずの一つでも作りたいな。サクラの好きなものとか。記憶が正しければ、サクラは甘い玉子焼きが好きだったはず。そんなことを思いながら、俺はお弁当を食べ進める。


「大輝君。ハンバーグ以外にお弁当の好きなおかずは何かしら? 私も何か作りたいわ。ハンバーグのお礼に文香さんにも」


 興味津々な様子で訊いてくる一紗。サクラが俺の好物のハンバーグを作ったので、刺激を受けたのかな。


「俺は……玉子焼きが好きだな」

「私も玉子焼きは大好きだよ。甘いのが好みかな。ダイちゃんもそうじゃなかった?」

「ああ。小さい頃から、玉子焼きは甘い方が好きだな」


 俺の記憶通り、サクラは玉子焼きが好きか。好みも同じというのは嬉しいポイント。ちゃんと覚えておこう。


「分かったわ。じゃあ、明日は甘い玉子焼きを作ってくるわね! 料理はそこまでできないけれど」

「ああ。楽しみにしているよ」

「明日の楽しみができたね」

「そうだな」


 料理はそこまでできないと自己申告しているけど、好物を作ってくると言われるとワクワクしてくる。一紗もやる気な様子だし、明日を楽しみにしよう。

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