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サクラブストーリー  作者: 桜庭かなめ
本編-春休み編-
24/202

第23話『お見舞い』

 午後5時過ぎ。

 シフト通りにバイトが終わり、俺は帰路に就く。

 昨日は結構雪が降ったけど、並木道に植えられている桜にはまだ花びらがついている。視線を下ろすと、雪の上に桜の花びら。季節が共演しているように思えて、実に美しい光景だ。

 途中のスーパーでプリンとりんごゼリーを買い、帰宅する。


「ただいま」


 土間を見ると、バイトに行くときにはなかった一足の黒いローファーが。おそらく、今も小泉さんがお見舞いに来ているのだろう。

 靴を脱いで家に上がったとき、リビングから母さんが姿を現した。


「おかえりなさい。青葉ちゃんが文香ちゃんのお見舞いに来てくれているわ」

「バイトの休憩中に、小泉さんからお見舞いに行くってメッセージを見たよ。文香の具合はどうだ?」

「青葉ちゃんが来たときに様子を見たけど、朝よりも顔色が良くなっていたわ。体温も37度1分まで下がってた」

「結構良くなってきているな。ほっとした。それなら、俺が買ってきたゼリーやプリンも食べられそうだな」

「文香ちゃん、喜ぶと思うわ」

「そうだといいな。俺も文香の様子を見てくるよ」


 2階に上がって、文香の部屋の前まで向かう。

 中から、文香と小泉さんの楽しそうな話し声が聞こえてくる。文香の声も普段通りだし、楽しく話せるくらいに体調が良くなって安心した。


 ――コンコン。

「大輝だ。バイトから帰ってきた。入ってもいいか?」

『どうぞ』


 中から文香がそう返事をしてくれた。なので、扉をゆっくりと開ける。

 中にはお粥を食べたときと同じ楽な体勢でいる文香と、その近くで勉強机の椅子に座っている制服姿の小泉さんがいた。俺と目が合うと、2人とも小さく手を振る。


「おかえり、大輝」

「バイトお疲れ様、速水君」

「ただいま。小泉さんいらっしゃい。母さんから聞いたけど、朝よりも体調が良くなっているみたいだな」

「うん。熱も37度くらいまで下がった。処方された薬が効いたんだと思う」

「あの病院で処方される薬、よく効くもんな。良かった」


 俺も処方された3日分の薬を飲みきるまでの間にだいたい治る。

 この調子なら、文香は今週中には普段通りの体調に戻るだろう。新年度の学校生活に支障を来たすことはなさそうで一安心。


「小泉さんがカステラを買うって言っていたから、俺はりんごゼリーとプリンを買ってきたよ」

「ありがとう。カステラを食べた後だし、今はりんごゼリーをいただこうかな」

「了解。じゃあ、プリンは冷蔵庫に入れておくよ」


 俺はりんごゼリーと、購入した際にもらったプラスチックのスプーンを文香に渡す。

 1階のキッチンに行き、プリンを冷蔵庫の中に入れる。和奏姉さんならともかく、両親は勝手に食わないだろうから、言わなくても大丈夫だろう。

 文香の部屋に戻ると、文香が小泉さんにりんごゼリーを食べさせてもらっていた。


「ん~、甘くて美味しい。冷えているのもいいね。大輝、買ってきてくれてありがとう」

「いえいえ。美味しそうに食べてくれて俺も嬉しいよ」

「夜か明日にでも、プリンを食べるね。テーブルの上にあるカステラ、何個か食べてもいいよ」

「この前のお花見で羽柴君が買ってきてくれたベビーカステラが美味しくて。一口サイズだから、風邪を引いている文香にもいいかなって」

「そういうことか。じゃあ、ご厚意に甘えて」


 俺はテーブルの近くにあるクッションに腰を下ろし、ベビーカステラを一ついただく。


「うん、美味しいな。バイト上がりだからか、お花見のときよりも美味しく思える」

「そう言ってもらえて、買ってきた人間として嬉しいな。それにしても、風邪引いたってメッセージが見たときは焦ったけど、快復に向かっていて良かった。文香に話を聞いたら、午前中に速水君が色々と看病したんだってね」


 ニヤリとした表情でそう言う小泉さん。

 小泉さんの様子からして、文香は玉子粥を食べさせたり、背中の汗を拭いたりしたことまで話したみたいだな。現に文香の頬が赤くなっているし。


「体調を崩していたからな。一緒に住む幼馴染として、できるだけのことはしたかったんだ。だから、文香の体調が良くなっていって凄く嬉しいよ」

「……そういう風に思ってくれる人と一緒に住み始めて良かったね、文香」

「え、ええ。り、りんごゼリー食べたいな、青葉ちゃん」


 ちょっと不機嫌そうな様子で、大きめに口を開ける文香。そんな文香に小泉さんはりんごゼリーをもう一口食べさせる。ゼリーが口の中に入ってすぐに文香の顔には笑みが浮かぶ。文香にとって、とても美味しいものなのだと分かる。


「そういえば、風邪を引いて学校を休んだときって、文香と速水君はお見舞いに行ったりしたの?」

「うん、行ったよ。小学生の頃は特に。私達が幼馴染だって先生達も知っているから、手紙やプリントを届けに。友達と一緒にお見舞いに行ったこともあったなぁ。和奏ちゃんが小学生のときは、一緒にここへ来てた」

「文香が風邪を引いたときも同じ感じだ。特に同じクラスのときは、必ずと言っていいほど俺がプリントや手紙を持っていったな。今回みたいに、お腹の調子が悪くなかったら、途中のコンビニでゼリーとかカステラを買っていったこともあったな。そういうときは、今の小泉さんみたいに文香に食べさせてたよ」

「そうなんだ。2人ともいいなぁ。あたしには幼馴染がいないから」


 羨ましそうな様子でそう言うと、小泉さんはりんごゼリーを一口食べる。


「もう、青葉ちゃんったら。食べたいなら一言言って」

「ごめんごめん。はーい、りんごゼリー食べましょうねー、あーん」

「あ~ん」


 これで小泉さんにりんごゼリーを食べさせてもらう場面を見るのは3度目だけど、文香は嬉しそうだ。

 そういえば、お見舞いに行って、俺が買ってきたものや美紀さんの作ったお粥を食べさせると、文香は美味しそうに食べて、嬉しそうな笑顔を見せてくれたな。

 中学1年生までは、お互いに体調を崩して学校を欠席すると、お見舞いによく行っていた。

 でも、例の一件があってからは、文香が体調を崩すと俺は文香の家には入らず、玄関で美紀さんに手紙やプリント、文香の好きなお菓子を渡すだけだった。俺が体調を崩したときも同じような感じ。

 ただ、高校生になってから俺が風邪を引いたときは、俺が寝ている間に部屋までノートの写しや課題プリントを持ってきてくれたり、キッチンで俺のためにお粥を作ってくれたりしたな。会えないのは寂しかったけど、家まで来てくれたことがとても嬉しかったな。


「どうしたの、大輝。黙って微笑んでいるけれど」

「……昔話をしたからか、色々と思い出したんだ」

「……そう」


 と言う文香も微笑んでおり、俺を見つめている。同じようなことを考えているのかな。そんなことを思いながら食べるベビーカステラはとても甘い。


「……これが幼馴染達の醸し出せる空気感なんだろうね。今の2人を見たら、2年生でも同じクラスになりたいってますます思ったよ」

「私も青葉ちゃんと同じクラスになりたいな。大輝も……今まで同じクラスだったことが多いから教室にいると安心感があるし、同じクラスだといいかな」

「……そうか」


 安心感があるから、同じクラスだといい……か。文香の口からその言葉を聞けて俺はとても嬉しい。


「俺も文香が教室にいると安心するし、同じクラスだといいな。小泉さんと羽柴も同じクラスになったら、2年生もいい1年になりそうな気がする」

「……そ、そう」

「文香ったらかわいい。あたしのこともそう言ってくれて嬉しいよ」


 爽やかな笑みを浮かべながらそう言うと、小泉さんは頬を赤くする文香の頭を撫でる。

 小泉さんも文系クラスを選択したから、小泉さんとも同じクラスになる可能性はある。文香、小泉さん、羽柴と同じクラスになれると嬉しいな。




 夕ご飯の玉子粥も俺が作り、文香は完食してくれた。昼前よりもだいぶ体調が良くなったので、俺達と一緒に夕ご飯を食べた。ちなみに、そのときは俺に食べさせてもらうことはなく、自分で食べていた。また、プリンは明日の楽しみにしておくという。

 文香は夕食後に処方された薬を飲むと、すぐに眠たそうな様子に。なので、新しい下着や寝間着に着替え、普段よりもかなり早く眠った。


「何か、ようやく自分の時間になったなぁ」


 ホットコーヒーを作って自分の部屋に戻り、不意にそんな言葉を漏らした。

 午前中は文香を病院に連れて行ったり、看病したり。昼から夕方まではバイトして。帰ってきてからも文香と小泉さんとカステラを食べながら喋ったり、文香の夕食の玉子粥を作ったりと盛りだくさんの一日だったな。


「でも、いい一日だったなぁ」


 そう思えるのは、文香の体調が今朝より良くなったからだろう。あとは、ひさしぶりに文香に看病できたのもある。

 そういえば、昨晩録画したアニメを全く観ていなかったな。文香が起きてしまわないように、普段よりも音を小さくして観るのであった。

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