第6話『和奏ちゃんと一緒に帰った。』
「うんっ……」
8月2日、日曜日。
ゆっくりと目を覚ますと……薄暗い中で見慣れない天井が視界に入った。
一瞬、ここはどこだろうって思ったけど、お泊まり女子会で一紗ちゃんと二乃ちゃんの家にお泊まりしていたんだった。こういう感覚になるのは、お友達の家でのお泊まりとか旅行とかで目を覚ましたときのあるあるだよね。
「文香さん、起きたのね」
小さな声で一紗ちゃんがそう言ってきた。
上体を起こしてベッドの方を見ると、ベッドには優しい笑顔で私のことを見ている一紗ちゃんの姿があった。
「おはよう、一紗ちゃん」
「おはよう、文香さん。自分の部屋だけど、みんながお泊まりに来ているから早めに目が覚めたわ」
「そうなんだ。いつもと違うからかな。私もお泊まりとか旅行のときはいつもより早く目が覚めることがあるから、その気持ちは分かるかな」
「そうなのね」
ふふっ、と一紗ちゃんは上品に笑った。
時間絡みの話になったので、部屋の時計を見てみると……今は午前6時45分か。休日だから結構早めだ。平日でもちょっと早いくらい。私もいつもより早い目覚めになった。
「10分くらい前に目を覚ましたの。みんなぐっすり寝ているから、可愛い寝顔を見られて朝から幸せな気持ちになったわぁ」
うふふっ、と一紗ちゃんは言葉通りの幸せそうな笑顔になっている。
周りを見てみると……今も寝ている杏奈ちゃんや青葉ちゃん達の寝顔は全て可愛らしい。これを見たら一紗ちゃんが幸せな気持ちになるのも理解できるかな。
「今日もみんなと一緒に過ごすのが楽しみだわ」
「そうだね」
今日はみんな部活やバイトなどの予定はないので、夕方頃までここに滞在することになっている。
「ねえ、文香さん。そっちにいっていいかしら。文香さんとお喋りしたいわ」
「うん、いいよ、一紗ちゃん」
「ありがとう」
それから少しの間、私の布団に入ってきた一紗ちゃんと、昨日のことやダイちゃんとのことについて小声で談笑するのであった。
みんなが起きて、純子さんと大介さんが作ってくれた洋風の朝ご飯をいただいた。
朝ご飯を食べ終わった後はみんなでアニメを観たり、部屋にあるテレビゲームで遊んだりした。ゲームをしたときは特に盛り上がった。
お昼ご飯は冷やし中華。この家でお泊まり女子会を開催させてくれたり、美味しい夕ご飯と朝ご飯を作ってくれたりしたお礼に、私、杏奈ちゃん、青葉ちゃん、和奏ちゃん、百花さんで作った。お昼作りは楽しかったし、麻生家のみなさんが美味しく食べてくれて嬉しかったな。
お昼ご飯の後は、再び一紗ちゃんの部屋でアニメを観るなどして楽しく過ごした。
午後6時近く。
お泊まり女子会は終わり、私、杏奈ちゃん、青葉ちゃん、和奏ちゃん、百花さんは家に帰ることに。
「こんなにたくさんの女の子達が泊まりに来てくれて、お母さん楽しかったわ。また泊まりに来てね」
「また泊まりに来なさい。もちろん遊びにもね」
玄関で純子さんが楽しそうな笑顔で、大介さんは穏やかな笑顔でそう言ってくださった。お二人の言葉に、私、杏奈ちゃん、青葉ちゃん、和奏ちゃん、百花さんは声を揃えて「はい」と返事する。
ここでのお泊まり女子会は楽しかったし、ここでまたお泊まりできたらいいなって思う。
「うちでのお泊まり女子会楽しかったわ。またいつでもお泊まりしに来てね。もちろん、誰かの家でお泊まりもしたいわ」
「あたしも楽しかったです! またお泊まりしましょう!」
一紗ちゃんと二乃ちゃんは楽しそうな笑顔でそう言ってくれた。ここで一日お世話になったけど、迎え入れる側である2人が楽しいと言ってくれて嬉しいな。2人ともお泊まり女子会中は楽しそうにしていたけど、言葉にしてもらえると嬉しいものがある。
「私もお泊まり女子会楽しかったよ。またやろうね」
「またやりたいね、文香! とっても楽しかったから!」
「凄く楽しい一日でした。またこのメンバーでお泊まり女子会ができたら嬉しいです」
「あたしも楽しかったよ。百花ちゃん以外はみんな年下だけど、フミちゃん達だったから楽しかった」
「年下の女の子達の家に泊まったことは全然ないけど、杏奈ちゃん達とだったから楽しかったよ」
私はもちろん、青葉ちゃん達もみんなお泊まり女子会が楽しかったか。嬉しい気持ちがもっと膨らんでいくよ。
「青葉ちゃん、お泊まりしたいって言ってくれてありがとね。それがきっかけでお泊まり女子会をやることが決まったんだし」
今回、とても楽しいイベントを開催するきっかけを作ってくれた青葉ちゃんに向けて私はお礼を言う。
私と同じ気持ちなのか、一紗ちゃんや杏奈ちゃん達もみんな青葉ちゃんに「ありがとう」とお礼を言った。
「いえいえ! あたしの誘いに乗ってくれて嬉しかったし、みんなと一緒に楽しい思い出を作れたし、こちらこそありがとうだよ!」
青葉ちゃんは持ち前の明るい笑顔でお礼を言ってくれた。お泊まり女子会中はとても楽しそうにしていたもんね。
これからも、今回のお泊まり女子会のように、青葉ちゃんきっかけで楽しい時間を過ごすことが何度もあると思う。
「では、私達はこれで失礼します」
「萩窪駅まで送っていくわ」
「私も送っていきます」
私、杏奈ちゃん、青葉ちゃん、和奏ちゃん、百花さんは一紗ちゃんと二乃ちゃんと一緒に麻生家を後にする。
お泊まり女子会のことを中心に話しながら、私達は7人で萩窪駅に向かって歩いていく。みんなで話すのは楽しいから、萩窪駅まではあっという間だった。
「みなさん、さようなら。また会いましょう」
「また会いましょうね!」
「みんな、またです!」
昨日の待ち合わせ場所でもある萩窪駅の北口で一紗ちゃんと二乃ちゃん、自転車で来た青葉ちゃんと別れた。
私と杏奈ちゃん、和奏ちゃん、百花さんは電車に乗って四鷹駅まで向かう。この4人で電車に乗るのは初めてだし、和奏ちゃんと電車に乗るのはひさしぶりなので新鮮な感じがした。
「文香先輩、和奏さん、またです」
「またね、文香ちゃん、和奏ちゃん」
四鷹駅に到着し、改札を出たところで北口方面に自宅がある杏奈ちゃんと百花さんと別れた。私は和奏ちゃんと一緒に南口を出て、ダイちゃんの家に向かって歩き始める。
四鷹の地に立つのは昨日の夕方以来だけど、結構ひさしぶりに感じる。
「四鷹に来るのはゴールデンウィーク以来だからひさしぶりに感じるよ」
「3ヶ月ぶりですもんね。実は私も……昨日の夕方以来ですけどひさしぶりに感じます。お泊まり女子会が凄く楽しかったからでしょうか」
「きっとそうだろうね。楽しくて濃い時間を過ごせた証拠だと思うよ。あたしも千葉の家に帰ったら同じように感じるんだろうな」
「ふふっ、そうですか」
それからは今回のお泊まり女子会について話しながら、和奏ちゃんと一緒にダイちゃんの家に向かって歩いていく。
駅から歩いて7.8分してダイちゃんの家が見えてきた。住まいが見えてほっとする。
家の敷地に入り、私が玄関を開け、和奏ちゃんと声を揃えて、
『ただいま』
と言った。和奏ちゃんと一緒に言うことは全然ないので新鮮だ。
「おかえり、文香ちゃん、和奏。和奏はひさしぶりだけど元気そうね」
「文香ちゃん、和奏、おかえり。和奏は元気そうで何よりだ」
そう言って、リビングからダイちゃんと和奏ちゃんのお母さんの優子さんと、お父さんの徹さんが姿を現した。2人とも穏やかな笑顔でこちらにやってくる。
「ひさしぶり、お母さん、お父さん。元気にやってるよ。無事に前期の期末試験や最終レポートの提出も終わって、夏休みに入ったよ」
和奏ちゃんは明るい笑顔でそう言う。お泊まり女子会中は最年長メンバーだったから落ち着いたお姉さんっていう感じだったけど、今は御両親の前だからちょっと幼い感じがして可愛い。
――ガチャン。
2階から扉の開閉音が聞こえた。
階段の方を見ると、2階から降りてくるダイちゃんの姿が。ダイちゃんは私達のことを見ると優しい笑顔になった。
昨日以来だけど、ダイちゃんの笑顔を見られて安心する。あと、この家で速水家のみなさんを見ると、「帰ってきたんだな」って実感できる。そして、帰る場所に好きな人がいることに幸せな気持ちを抱く。
「おかえり、サクラ、和奏姉さん。姉さんはひさしぶりだな」
「ひさしぶりだね、大輝!」
和奏ちゃんは嬉しそうな様子で言い、ダイちゃんのことを抱きしめる。非常に和奏ちゃんらしい。
ダイちゃんは落ち着いた様子で和奏ちゃんのことを抱きしめ、右手で和奏ちゃんの頭を撫でている。
「あぁ、やっぱり大輝と直接会うのはいいね。こうして温もりや匂いも感じられるし」
「そうか。俺も直接会えて嬉しいよ」
ダイちゃんは穏やかな笑顔でそう言う。
それにしても、ダイちゃんのことを嬉しそうに抱きしめて、温もりや匂いを感じられていいと言うなんて。和奏ちゃんはブラコンだなぁ。
「元気そうで何よりだよ」
「うんっ、元気に大学生活を送ってるよ。期末試験とレポート提出を終えて夏休みに入ったよ」
「そうか。試験とレポートお疲れ様」
「ありがとう」
和奏ちゃんはニコニコとした笑顔でお礼を言い、ダイちゃんへの抱擁を解いた。
ダイちゃんは和奏ちゃんへの抱擁を解くと、私の方に向いて両手を広げてくる。
「サクラも抱きしめていいか? 丸1日会えてないから抱きしめたくてさ」
「うんっ、いいよ。私も抱きしめたいし」
「ありがとう」
ダイちゃんはお礼を言うと、私のことをそっと抱き寄せた。そのことでダイちゃんの温もりや匂いを感じられて。落ち着く。直前まで和奏ちゃんを抱きしめていたから和奏ちゃんの匂いも感じるけど、和奏ちゃんの匂いも好きだからね。そんなことを思いながら、私は両手をダイちゃんの背中の方に回した。
こうして家の中でダイちゃんに触れると、帰ってきたんだなぁって改めて実感する。
「ダイちゃんと抱きしめ合うの……落ち着くなぁ」
「俺もだよ、サクラ」
「ふふっ」
と声に出して笑って、ダイちゃんにキスをした。和奏ちゃん達がいる前なので、一瞬、唇が触れる程度のものだけど。それでも、ダイちゃんの唇の柔らかさや温もりはしっかりと感じられて、幸せな気持ちになれた。
「ふふっ、ゴールデンウィークに帰省したとき以上にラブラブだね」
「日々、大輝と文香ちゃんはラブラブになっているわよ」
「そうだね、母さん」
和奏ちゃん達はダイちゃんと私のことを見ながら穏やかな笑顔でそう言った。気恥ずかしさはあるけど、嫌な気持ちは全くない。ダイちゃんも同じなのか、ほんのりと赤くなっている顔に笑みを浮かべていた。
「サクラ、和奏姉さん、お泊まり女子会は楽しめたか?」
ダイちゃんは私と和奏ちゃんのことを見ながら問いかけてくる。
私と和奏ちゃんは顔を合わせる。すると、和奏ちゃんはニコッとした笑顔になって。
『楽しめたよ!』
和奏ちゃんと声を揃えて同じ感想を言った。
「そうか。楽しめて良かった」
ダイちゃんはとても嬉しそうな笑顔でそう言ってくれた。
私達のことでここまで嬉しそうになれるところが素敵だなって思うし、好きだなとも思った。




