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神々の闘争 War of the spirits  作者: ラザニャン
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レインⅠ 2章・魔術師④

 7




「今からおよそ2000年前、突如としてこの地球上に2つの生命体が誕生したと言われている。1つがリン坊も知ってる〈精霊〉。そしてもう1つ〈精霊〉と相反するもの、〈()()〉。リン坊も見た()の名称だな」


 画面に〈精霊〉である光体と、正しく正反対な存在とも言える人型の影、〈悪霊〉が映っている。


「学校の歴史で多少は習ったんじゃないか。〈精霊〉と〈悪霊〉について」

「確かに習いましたけど、俺はあれが神話だとは思えないです」

「6年前のことか」


 ギュッと拳を握った。


「はい」


 6年前に突如発生した地陸の大変動。それに伴った濁黒の瘴気の蔓延。

 そして、メディアの悪意ある改ざん、世間のあからさまな解釈の変化、周囲の哀れみ、異物を見るような視線。

 あの時は、味方という存在そのものが腹立たしかった。最後には皆等しく拒絶するっていうのに。


「言うことを信じてくれなかった。一方的に被害者の価値観を押し付けられた。ってか?」

「……さっきから思ってたんですけど、あなたはエスパーかストーカーか何かですか?」

「何を言っている。いたって普通の人間だぞ」

「ほんとに?」

「しいて言うなら、お前さんのここ最近の行動を監視してたことぐらいだな」

「やっぱりそうだったよチクショウ!?」


 まあ、ある程度予想できていたことだからよかったんだけど……いや、よくはないな。


「あっ」


 ふと、今朝の担任の村田先生と、帰りで(まい)が話していたことを思い出した。


「ビルが崩れたっていう話、あれもまさかあの時と同じですか」


 わずかに動悸が加速する。

 もし、また6年前と同じことが起きてしまったら──。そう考えた瞬間、胸がズキンと痛む。


「いや、違う。そこは心配しなくていいぞ」

「そうですか……」


 安心した。あの地獄をまた味わわずに済む。


「そういや、まだ言ってなかったな。我々ラギアスの仕事は、6年前のような被害をできる限り減らすことなんだ」

「え? 魔術師に関することなんじゃ……」

「それは裏の仕事だ。表向きは気象・地理超常現象の問題解決さ」

「な、なるほど」


 確かにそういえばそうだ。秘匿集団だって説明を受けていたことを忘れていた。


「でも、よかった。あれが起こることはもうないんだ」

「あー、そのことなんだがな」


 中路(なかみち)は後頭部をポリポリと掻いた。


「違うとは言っても、全部が違うというわけではないんだ」


 ウィン、と音が機械から聞こえてきた。


「今のことをどうこう言う前に、まずはこれを見てくれ」


 映し出されたのは、一棟の高層ビルをとらえた監視カメラの映像だった。(まい)に見せてもらったものと酷似している。


「おさらいだ。流すぞ」


 動画が再生し、数秒経った頃──。

 ──高層ビルが()()()()()()()()()()()()()()()()


「知っての通り、今朝未明の高層ビル倒壊の映像だ。これはニュースで流した方だな」

「これは──ということは、違う方があるんですか?」

「おう。修正前のやつがな」


 まだ崩れていないビルが画面に映った。同じアングルの映像だ。ただ、先ほどと違ってわずかに粗い。動画が再生し始め、画面の奥で複数の物体が動いた。次の瞬間──ビルの一部が光に包まれ、破壊音とともにクモの巣上にヒビが入り、ビルが音を立てて大きく崩れ落ちた。


「どうだ?」

「……え、なに、今の」


 いろんなことがいっぺんに起こりすぎて、数瞬フリーズしていた。


「魔術師と、〈悪霊〉の上位種〈魔族〉との闘争だ。うちの力が強いもんが、ちょっとばかし羽目を外しちゃって想定外の被害を出してしまったがな」

「いろいろ突っ込みたいことあるけど、一般人は平気なの!?」

「あ、それについては問題ない。人除けの霊術を使っているからな」

「なんかよくわかんないけど、ならいいです!?」

「じゃ、次に行くぞ~」


(や、休まらねぇ! 主に頭……)


 かなりハイペースだ。思わず眉間をつまむ。


「さて、話の大本命だ。この闘争と6年前の()()の関連性についてだな」


 中路(なかみち)の言葉に、急に体の中が静かになった。

 情報に疲れた脳も、一瞬で集中モードに切り替わる。


「結論から言うと、間接的に関係ある。というのが適切な言い方だろう」

「……間接的?」


 手のひらに力が入る。


「順を追って端的に説明するぞ」


 画面に青い球体──日本に焦点を当てた地球が出た。


「6年前の6月末、神奈川県と静岡県の県境を中心に突如地形を歪ますほどの巨大クレーター、およびそれと同規模の地割れが日本全土で一斉に起こった。死者500人越え、行方不明者数万人、負傷者に至っては20万を超えるという、観測史上稀にみる大規模災害……。その時は日本だけでなく世界中がパニックになった」


 世界各地が超常現象に関するニュースで溢れかえり、それが流れるたびに恐怖する民間人の映像が画面を流れた。


「世界中の研究者達は調べまくったさ。発祥元、原因、次の発生場所……考えうる可能性、パターン──。ありとあらゆるものをひたすらな。だが、これといって有力な成果は出なかったんだ。あまりにも規模が巨大かつ未知の領域のためか、仮説を絞り切ることができなかったんだ」


 研究者と思われる頭を抱えた人々が、次々と画面に映っては消えていく。


「ところが、昔小さな島国某所にあるちっぽけな研究機関がし真相を突き止めることに成功した」

「それが、ラギアス……」

「そうだ」


 コクリ、と中路(なかみち)はうなずく。


「そもそも観点が違ったんだ。世界は発生の被害を受けた部分──つまり、地上を調べることにくぎ付けだったことに対し、我々は()()──細かく言えば、大きな被害が出た座標をそれぞれつなぎ合わせ、上空に伸ばしたある地点を主に調査したんだ。そうしたらなんとビンゴ、この地球と()()()()()()にもう1つ、地球と構成物質が非常に酷似した天体が存在したではありませんか!」


 実線で描かれた地球の一部と、衝突するように破線の天体が付け足された。

 長身を活かして、わっと腕を大きく振り上げた中路(なかみち)のテンションがヒートアップしていく。


「そこからは時間との勝負さ」


 ゴクリと生唾を飲む。


「今までに世界で起きた超常現象の数々、さらには過去の大絶滅、猛烈に大規模の気候変動などなど。その結果、全てではなかったがな、2000年前と500年前に起こった超常現象のいくつかは、異空間天体の衝突によるものだと判明した」

「お、おお……」


 ぶるぶると体が震えた。スケールの大きさにワクワクが収まらない。


「さらに! 同時進行で解明を進めていた天体には、多くの生命反応があることも分かった!」


 グワッと、中路(なかみち)が大きくガッツポーズをする。


「おおおっ」

「そしてそして、空間同士のねじれの影響からか、日本のある特定の地域で特に多くその生命体が出現することも分かったんだ」


 破線天体の位置が少しずれ、地球との重複部分が増えた。


「そして時代は戻り、今! 異空間天体の重複箇所を調べた結果、この辺りが衝突寸前だと分かった」


 破線惑星がアップして映ったのは、太平洋の日本とハワイの中間地点、インドネシア諸島の沖縄寄り、ヒマラヤ山脈、ロシア東端を通りマルっと囲った図。


「たった6年でここまで重複したんだ。速さは相当なものといえるだろうな。6年前ほど目に見えるほどではないが、突風被害の報告は今も割と頻繁に受けている」


 画面が消沈した。


「我々ラギアス──カッコ表向き──の目標とは、この謎の天体の正体を暴き、そのうえで考えうる限り全ての方法と戦術を用いて地球から引き剥がすこと。それに、6年前の災害以来、爆発的に上昇した〈悪霊〉に関する報告を0にすることなのだ」


 フッと場の空気が記憶にある小部屋に戻った。


「〈悪霊〉は昔から〈精霊〉と相対してここに存在する。それは間違いではない。確かに、現状報告されている()襲撃は〈悪霊〉の仕業さ。正確には、その上位種の〈魔族〉だがな」


 中路(なかみち)の説明を聞いているうちに、神話魔術書の内容に小さな疑問を持った。


「その、神話魔術書に〈天使〉という単語があったんですけど、それは?」

「ちょっと複雑なんだがな、端的に言えば〈精霊〉の上位種だ。それは書いてあったろう?」

「ええ、でも聞きたいのはその先です」

「なんだ。言ってみ」


 中路(なかみち)は、所々驚嘆したような見せる。


「〈悪霊〉の上位種〈魔族〉は帰りに見ました。黒い瘴気が集まって、1つの形を形成したところを目撃したので。でも今の話だと、〈天使〉も目に見えるということになりますよね。上位種という括りなら」

「ああ、そうだな。さっき主将が話してた〈アイン〉という天使が我々の目に見える以上、その考えは正しいだろうな。本にも書いてあったと思うが、我々が知るだけでも〈天使〉は数10体いるし、機会があったらアイン殿以外の〈天使〉にも会えるんじゃないか?」

「〈天使〉……会ってみたい」


 俺のその言葉に、中路(なかみち)は笑った。


「はっはっはっ。お前さんは会えるさ。なんせ、()()なんだからな」

「ぬぐぅ……」


 同時に羞恥も食らった。


「それはそうと、黒い瘴気ってのはなんだ? 初めて聞くが」

「〈魔族〉にまとわりついてた、よく分からないモヤモヤです」


 交戦している時も、あれだけには触れてはならないような気がした。細胞を滅されるような禍々しさを備えていた、不気味な印象。


「そんな情報あったっけか? ぼくは初耳だが。それはずっとか?」

「……左目にはずっとではないけど写ってます。グッと力を入れるとうっすら見えてくるような感じですね」

「いつからだ?」

「6年前のあの時からです」

「そうか……ふむ」


 中路(なかみち)が、急に考え込むように静かになった。


「……すまないが、ぼくはその瘴気を見たことがない。おそらく、主将もだ。アイン殿にも聞いておくが、その黒い瘴気とやらを見つけたら、迷わず僕に連絡してくれ」

「わかりました」


 中路(なかみち)には見えていない。仙充郎(せんじゅうろう)にも。(まい)も見えている様子ではなかった。もし、見えるのが俺だけだとしたら──。


(運がいいのか、悪いのか──どっちにしろ、ラッキーなことには変わりないな)


「今の話はもう終わりにして、最後にお前さんをここに呼んだ真の目的、今後やってもらいたいことを伝える。いいな?」


 コクリと──強い意志を持って、俺は頷いた。

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