レインⅠ 2章・魔術師②
⑤まで説明回です。
5
「倫也君、英雄になってみないかね」
突然のことだった。
時を遡ること数時間前──。
目の前の老人からそれを言われた。
その問いに対して数瞬の間、俺は静止した。
「え、英雄?」
「そうじゃ」
「それって、世界を救うあの英雄……ですか?」
「うむ」
老人は小さく頷いた。
「お主にはこれからこの堕ちた世の中を改変してもらいたい」
「い、いきなり言われても、意味が……」
あまりの急な申し出に、俺は困惑しっ放しだった。
「無理もなかろう。だが、現在の世界は確かにおかしくなっておる。そこは知っておいてほしい」
事の展開がさらに複雑になって、とっさに返事ができなかった。
「詳しい説明は中路君に任せておる。彼が戻るまでここでくつろいでいてくれたまえ」
「わ、分かりました」
──と、言われたが……。
(いやいやいや、いくらなんでも気まずいって!)
くつろいでくれと言われても、こっちはまだ現状を全く理解できてないというのに。でも、ここでと言われたから何か時間をつぶすものを見つけなければ……。
とりあえず部屋を一瞥して、分厚い本がぎっしりと詰められた壮観を醸し出している本棚の前に立った。
すると、ある一冊の書籍に目が止まった。
(あれ? これ、どこかで……)
「あ、あの!」
「うむ?」
「これ、読んでもいいですか?」
そういって、老人の前に一冊の本を提示した。
その書籍全体に、うっすらと懐かしいものを感じたから手に取った。ただそれだけだ。
「ふむ、〈神話魔術書〉……気になったのかね?」
「なんか、どこかで見た記憶があって」
「──ふむ、良い。となりの仮眠室で読むがよい」
老人はわずかに悩む素振りを見せたが、快諾してくれた。
*
第2項 (第5改定版)
精霊・悪霊
・〈精霊〉──森羅万象に存在する霊波生命体。様々な恩恵を授与する。上位種に〈天使〉が存在する。
・〈悪霊〉──森羅万象に存在する魔波生命体。様々な災害を引き起こす。上位種に〈魔族〉が存在する~~~~。
第3項 (第5改訂版)
魔術師
魔術師──主に精霊魔術師と異能魔術師に分けられる。
・精霊魔術師──別名霊晶者。〈精霊〉の霊力を得て体外魔術を生成して能力を発揮する。
・異能魔術師──別名異能者。〈精霊〉の霊力を得る精霊魔術師とは少々異なり、自然の霊力を利用して体内魔術を生成する。
両者にかかる恩恵の享受に基本的な相違は無く、身体能力の向上、五感感知上昇が主に挙げられる~~~~。