生徒会長からの絶対指令、全力でオトせ!
銀色眼鏡の生徒会長、素敵です。
大陸の西にある大国、ユーラグシアン王国。
千年続く歴史ある王国は、たった一人の分別の無いピンクの頭の下級貴族令嬢によって崩壊しかけていた。
王国の最も長い歴史を誇る、魔力がある者ならば皆が通う事になる、14歳から三年制の王立レラナール魔法学院。
四階建ての校舎の最上階、王室や高位貴族専用のサロンなどが並ぶ一番奥の生徒会室では、生徒会長、副会長、書記一人に会計二人、会計監査一人が放課後、人払いをして密談していた。
「ハワード生徒会長、もう時間がありません。ゾーン殿下はサウスシーズ男爵令嬢にメロメロです。愚かにもアナスタシア王女に婚約破棄を突き付けるのは時間の問題です!来月の国王陛下の誕生パーティーが一番危険だと思われます。」
「分かっている。あいつがバカなのは昔から知っていたが、本当に救いようの無いバカだったとはな!自ら王位を蹴るような物だと何故気付かない。相手は学院に入るまでは平民だったんだぞ。なんの価値もない女に入れあげて資産を使い果たすとは!どう考えようが幼い頃から淑女教育を受けている完璧な隣国の王女、アナスタシア様と比べるまでも無いだろうが!!」
「まぁ、ゾーン殿下も顔だけで頭空っぽだし、あの女と似た者同士でしょ?僕、二人とも嫌い。」
赤茶色の短い髪に緑の瞳、目の大きなまだ幼さの残る二年生副会長のラウルが銀色眼鏡の生徒会長、金の瞳に長い銀髪を左肩に流している最終学年のハワードに問えば、何度目が分からない殿下の悪口が飛び出す。そして、肩までの金髪に深い海の様な青い瞳、女性と見紛う様な美しい目鼻立ちのキアヌ辺境伯子息が更に辛辣に吐き捨てる。
ゾーン殿下と、ナリビアーナ公爵令息のハワードは従兄弟同士の幼なじみだ。ゾーン殿下はハワードと同じ銀髪だが、瞳は青い。レラナール学院の三年生、同じ歳の従兄弟だけあって良く似ているのだが、目の色とハワードの雪の精霊に愛された冷たい眼差しですぐに見分けられる。
お互い気心は知れているつもりであった。
それがあんな顔だけの礼儀作法も何も知らない、凹凸もないただの少女に入れあげるとは予想もしていなかったのだ。
ハワードが気付いたのは半月前。
隣国からゾーン殿下との交流を持つために同じ三年生、殿下と同じクラスに留学してきたアナスタシアは誰から見ても美しく聡明で、腰まで伸ばした髪は銀に近い金髪、瞳はアクアマリンの様な水色。令嬢としては少し背が高いとは思うが、華奢な首から肩のライン、腰は細いのに胸は素晴らしい曲線を描く。
令息だけだはなく、令嬢の間でも人気があった。
そのアナスタシア嬢が誰もいなくなった放課後の図書室で泣いていたのを、たまたま一人で見回りをしていたハワードが見掛けた。
事情を聞くも、ただ首を振るだけで何も言わない。
おかしいと思ってゾーン第一王子を問い詰めれば、バカ王子は「俺は真実の愛を見付けたんだ!アナスタシアでは無い!あんな感情の分からない女と一生を共にするなどごめんだ!!」とかバカな事を言っていた。令嬢は感情を顔に出さないもの。その為の淑女教育を幼い頃から受けている。つうか、下位貴族の令嬢でも、感情のこもらない微笑み位、幼女の内に体得しているものだ。
しかも、男爵令嬢の為にアクセサリーや流行りオーダーメイドのドレスを買い与え、バカ殿下の個人資産を使い果たすだけでは足りず、国庫から少なくない額に手を出しているのも分かった。
本気で殺ってしまおうかと思った。
あいにく、ハワードの出した数十の氷の槍を、バカ殿下とハワードの護衛七人が何とか打ち砕き、バカ殿下はその間に逃げたため、叶わなかった。
バカ王子は一人息子だ。ハワードは自分にも王位継承権があるのは知っていたが、自分は王の器ではない。
自分は参謀が丁度良いと思っていた。
バカはバカなりにブレーンを配置する位すればいいのだが、そんな事も出来ない。使い物にならないバカなのならば、さっさと二番目の継承権を持つ者を祭り上げるだけだ。
父のナリビアーナ公爵は王弟だからバカ王子に次ぐ二番目の継承権を持つ。しかし、国王陛下と一つしか違わない父が王位に立つ事はないだろう。
次がハワードなのだが、まだ幼い弟が二人いるのでナリビアーナ公爵家を絶やす事はない。
副会長ラウルの父、サザーランド公爵は母親の先代公爵夫人が王女であった。
勿論二人とも王家の血が流れている。ハワードが無理に王位に立たずとも、ラウルでも構わないのだ。
それに、書記のサンズ侯爵家のトーマスの父は近衛隊隊長、会計二人の伯爵家は騎士団所属の父がいて、自身も騎士団に入るべく努力をしている。会計監査のキアヌの父、オースティン辺境伯は王家に次ぐ絶大な力を持っているし、息子のキアヌは北の海を隔てた氷の国の第三王女を母に持つ。
ハワードの周りには頼りになる家柄は揃っているのだ。しかもここにいる権力者の息子と第一バカ王子は交流を持たない。
今のところは学院でのトラブルなので、生徒会長をトップとした子息達で出来る事はやらねばなるまい。
尻の軽い一年生の男爵令嬢は高位貴族、しかも嫡男なら誰にでも色目を使う。
無い胸を押し付け、あなたの事は何でも分かるのだと潤んだ目で見上げるのだ。みんなやられたが、馬鹿馬鹿しいので適当に振り払った。
引っかかったのはバカ王子だけ。
となればやる事は一つ。
生徒会長ハワードはソファーから立ち上がると銀色眼鏡を外し、生徒会役員に指令を出す。
「アナスタシアは俺が堕とす。皆は全力であの女を堕とせ。バカ王子から全てを奪い取る。」
「「「「了解です。」」」」
「……ハワードが言うなら僕もやるよ。」
さぁ、始まりだ。
アナスタシアを泣かせた罰だ。地獄を見せてやる。
せいぜい足掻け。
その時、焦った様なノックが響き、入室の許可を聞く前に扉が開かれた。
もう一人の副会長、ドレイク侯爵家のカイルが一年の委員長と、三人の庶務を引き連れ飛び込んできた。
「大変です!ハワード生徒会長!!サウスシーズ男爵令嬢が、聖女として目覚めました!!」
「「「「「何だって!!!」」」」」
カイルは、階段を駆け上がってきたのだろう。
いつも丁寧にセットしている黒髪を乱し、額に汗を滲ませ、息を切らせながらも一年の委員長を促し、事情を説明する。
「彼は一年Eクラスの委員長、ジャックです。彼の話を聞いてください。ジャック、さっき言った事をそのままお願い出来るかい?」
カイルに紹介された、代々騎士団長を勤めるシュナーク伯爵家令息のジャックは、高位貴族令息が並ぶ生徒会室で、堂々と説明し始めた。
「はっ!本日の午後の最後の授業中、魔術で石を浮かべていた所、サウスシーズ男爵令嬢が突然光出し、三人の精霊が現れました。祝福を受けたのだと感じました。カーター教授とEクラスの全員が見ました!」
これにはハワードと生徒会役員全員が言葉を失くした。
しばらく皆が押し黙った重苦しい雰囲気の中、キアヌがハワードに問いかけた。
「ハワード、どうする?もう国王陛下やうちの父上や重鎮達も知ったと思うよ。あんなのが聖女とか信じられないけど、力を持つとなるとあの子を大人達は放っておかないよ。バカ殿下を排除する策はあるの?」
「……キアヌ、君には別にやってもらわないといけない事が出来た。頼んでも?」
珍しくこちらの意思を問うハワードを不思議に思いながらも、キアヌはにっこりと微笑んだ。
「勿論だよ。何か考えがあるんだね。」
続きます。
ありがとうございました。