目覚め
鏡に自分が写らない衝撃を受けていたおれ、黒川マサキは、憧れのヴァンパイアになれたことを安易に喜んでいた。
あれだけの痛みに襲われたことなど、もう頭の中にはなかった。太陽の光を浴びただけで全身が焼けるように痛みが走ったあの日の記憶。だけど、それも今ではどこか遠い昔のように感じている。
自分の得た力を確認するのが楽しみすぎて、ついつい笑みがこぼれる。今の自分にできることが、想像を超えているから。
結局、この日は学校をサボり、夜を待った。
部屋のカーテンは閉めたままで過ごしたのに、なぜか太陽の位置を感じる。日が落ちるのを感じた。その瞬間、少しだけ胸が高鳴る。
カーテンを開けると、ちょうど月が顔を出したところだった。月明かりが部屋を照らす中、逸る気持ちを抑えきれず、近くの廃工場へ向かった。
廃工場と言っても、周りの建物と比べてその作りは段違いに頑丈で、廃墟というよりも、むしろ昔の威厳を感じさせる。おれは、ただその頑丈さを確認するために、壁を軽く小突いてみる。
ズガゴゴゴゴゴ。
「…は?」
口を開けて呆然とする。壁にぽっかり穴が開き、廃工場が崩れ始めるのを目の当たりにして、おれはただただ驚くしかなかった。
「いやいやいや…え、事件じゃん。」
計り知れないほどの筋力が自分に宿っていることに気づき、その異常さに一瞬驚くも、好奇心が勝ってしまう。身体能力を確かめるために、まずは家まで全力で走ることにした。
徒歩20分ほどの距離を、帰りは2秒で駆け抜けた。次にジャンプしてみる。軽く屈んで、全身をバネにして跳んだ。その跳躍は、普通の人間の何倍もの高さ。
そして、その勢いがまったく衰えない。
頭が雲にかかる頃、ようやく勢いが弱まり始め、そこでようやく気づく。
「落ちる…。」
そして、急いで落下の準備をするが、どこまで落ちても無事に着地した。小さなクレーターを作っただけで、反動すら感じない。
「すげぇ…」
まるでゲームのキャラクターのように、自分の身体が自由自在に操れる。楽しさが止まらない。
そのとき、突然、足元に謎のサークルが現れ、光り出した。足元を見下ろすと、サークルが光の中でくるくると回り、見る間に広がっていく。
「え…?これってラノベでよくある…異世界転移…!?」
夢のような力を手に入れたばかりなのに、まさか異世界に転移することになるなんて。
だが、突然の出来事に戸惑いながらも、胸が高鳴る。こんなに面白いことが起こるなんて、きっと自分には何か特別な運命があるのだろう。
けれど、心の中で、ほんの少しだけ不安が浮かぶ。異世界に転移することで、何が待っているのだろうか?ただの冒険が、もしかしたら自分を試すものになるかもしれない。その時、すぐに答えを出せない自分に気づく。
「でも、もう後戻りはできないな。」
楽しみと不安が交錯する中、目の前のサークルに足を踏み入れる。次の瞬間、すべてが光に包まれた