007
まずリネは近くのデパートに向かう。
普段であれば、その道中も色々な話をして楽しい時間になるはずなのだが、今のリネには大きな荷物を運んでいるような気分になっていた。
デパートの扉がゆっくりと開く。
夏も過ぎた時期だったが、まだ涼しい風が扉から流れ出ていた。
「……」
リネが無根で通り過ぎると、そのリネにぴったりとくっつくカナタも後を追う。
1階から色々店を覗きなら
「これ、おもしろい形だね~」
「これってなにに使うんだろ?」
「このキャラクターかわいい!」
などと、後ろから抱きついてきているカナタに話しかける。
それは彼氏彼女のほほえましい光景。ただし、度が過ぎなければ。
周りからのイタイ視線が槍のように二人に襲いかかっているのを感じる。
今のカナタの行動は何かの冗談で、そのうち飽きるだろうとリネは必死に気づかないふりをしつつ、いつものように振る舞った。
いつものように振る舞った……が。
「あ~! もう無理!」
1時間ほどその体勢から変わらないため、リネはデパートを出た瞬間に叫んだ。
もちろん周りに人がいないことを確認している。
「?」
リネを抱きしめるように手をまわしていたカナタを振りほどいた。
「なに、何で怒られてるかわからないような顔してるのよ!」
怒鳴られてもやはり、頭に疑問符を掲げているカナタに
「今日は様子が変よ? どうしたの?」
「??」
「からかってるつもりなの?」
明らかに怒った態度をとるリネの姿に、少しビクビクしながら、それでも抱きつこうとするので、彼の手を強く叩いて制止する。
「もういいわよ! せっかく楽しみにしてたのに、台無しよ!」
そういい言い放って彼女は一人で歩いていった。
「あ……」
ぼーっと立ち尽くす彼をおいたままで。
雨の降る日が続いていた。
空を見上げると温かいとも冷たいとも言えない雫が頬にあたり、ヒゲを揺らす。
彼女は雨が降るたびにボクを傘で守ってくれていた。
けども、ずっと守ってもらう事はできないということをボクはわかっていたし、彼女もわかっていただろう。
雨に打たれ続けたボクの体の体温が段々と体から離れていく。
今日も彼女は来てくれるのだろうか。
起きあがる事もできない体でボクは闇に染まりかける真っ赤な空を見ていた。
ボクの体温とは反対に燃え上がるような空が急に何かに覆われた。
彼女……ではなかった。
「こんにちは」