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006

「……懐かしい夢」

 窓から差し込む朝の光を思わず手で遮りながら、リネは一言つぶやいた。

「昨日の姿を見せちゃったからかな?」

 独り言をつぶやきながら、鏡の前で髪の乱れをチェックする。

 肩口までしかないショートボブの髪は、油断するとすぐに外にはねてしまうから注意しないといけない。

 髪型を整えるのは服を着替えてからにして、朝食を作るためにリビングに向う。

『あの頃の私は、もうちょっと大人だったら、あのまま猫を段ボールに置いておくと雨に降られ続けてしまうってことに気づけたのになぁ』

 トーストに、ジャムを塗りながら、あの日のことを思い出す。

 段々と元気がなくなっていく子猫を見ながら、当時のリネは原因に気づくこともなく、ある日突然段ボールがなくなったことにひたすら悲しみを覚えていた。

「ん~。まだ少し時間があるかな?」

 髪を整えたあと時計に目を移すと、出て行くのには少し時間が早いようだった。

「あっ、この前買ったアクセサリって、今日の服に合うかな?」

 鏡の前でつぶやきながら、リネはジュエリーボックスに手を伸ばした。



 彼女はボクの目の前で座り込むと、ボクの目を見ながら今日あった出来事を楽しそうにしゃべり続けてから最後に微笑んで去っていく。

 ボクから話しかける方法は見つからなかったけれども、彼女を見る毎日はとても楽しかった。

 しかしボクの命はそう長くはない。と、近頃感じるようになってきた。

 体だだんだんと弱くなっていき、手に力が入らなくっていく。

 だけど、毎日ボクに声をかけてくれる彼女には、その事を知られないように必死に元気な姿を演じていた。

 その日は朝から雨が途切れることなく降り続いていた。

 天から降るその冷たい滴から逃れる手段を持っていなかったボクは、ただただ、体温を奪われるのを感じながら横たわることしかできなかった。

「大丈夫?」

 ふとその滴がボクの体に当たらなくなったので瞼を上げてみると、彼女が自分が濡れることも気にしない様子でボクの体を傘で守りながら見つめていた。


 ありがとう。


 そんな感謝の言葉もボクの口から発せられる音はできないけれど、その気持ちを一生懸命伝えようとがんばった。



「ん~。やっぱり早く着きすぎてしまった」

 少しだけ袖をずらし、腕時計の時間を見る。

 約束よりも10分以上早く来たことになる時間が示されていた。

 ちょっと遅れて「ごめん~まったぁ?」みたいなマンガでよくある光景をしたいとは思わないが、こうも早く着いてしまうと、時間までの間に段々と良くないことを考えてしまう。

「今回は特にあんなことがあったしなぁ……」

 雨の中で電柱に向かって手を合わせる姿はあまり見せたいと思っていなかった。

 そこまで深い理由ではないが、リネの中では10年以上経った今でも、それは心の大きな部分を占めていた。

 絵に描いてしまうほどに。

「さすがに前みたいなことはないかな?」

 10分ほど早く来てしまっけど、どこかで時間を潰すまでもないだろう。

 前回のデートではリネは約束の30分前に来てしまったが、そこには緊張していた彼もすでにおり、待ち合わせ場所でお互いに不意打ちを受けたような顔をして思わず笑ってしまった。

 その話で盛り上がった結果、食事をする場所に困ってしまったがいい思い出だ。

 2回目ともあってお互いに早い時間に来るということはなかったようだ。

 携帯電話に表示された時計を眺めながら、そろそろかなぁと考えていた時に

「リィネセンパァ~イッ!」

 背後から『どすっ』という衝撃と共に聞き覚えのある声が耳元から聞こえた。

「うわぁ!」

 と思わず叫び声を上げながら抱きつかれた腕をはがして距離をとる。

「お、おはよ……」

 おびえながら自分のカナタの顔をうかがうリネ。

「おはよっ」

 その態度を全く気にしない様子でにこにこと笑顔を見せながら挨拶を返す。

「今日は……なんだかいつもと違うね」

「センパァ~イッ」

 また甘えたような声で言いながら抱きつこうとする彼を必死に押さえ込む。

 元々154センチ前後のリネと比べて10センチ以上の身長差がある上に相手は年下とはいえ男性なので、リネが力比べで勝てる訳がないが、それでも逃れようと必死になる。

 が、

「もう、どうにでもして……」

 結局リネは根負けして、彼のなすがままにされることにした。

 彼に背後から多い被さるように抱きつかれた状態で、歩き出すことにした。


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