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005

 次の太陽が上った時、ボクは茶色い壁に囲まれたものに入れられて女性に箱ごと抱えあげられてまた青い空の見える外にでた。

 この茶色い壁は、以前とは違ったが、見覚えがあった。

 もう昨日いた場に戻る事はない。と感じながら流れる雲と女性の顔を見ていた。



「結局なにも聞いてこなかったなぁ~」

 風呂から上り髪を整えたあと、ベッドの上で横になりながら、リネはつぶやく。

 立ち止って手を合わせた時、その不自然さから普通なら「どうして?」ぐらいは尋ねてくると思っていたが、結局家の前に着いて別れの挨拶をしても彼は何も質問してくることはなかった。

「気まずい雰囲気になって明日のデートに影響しないようにって考えたのかな?」

 その程度の考えはしたものの、リネはそれ以上考えることをやめて、明日の予定に思考をシフトさせていった。



 あれは、リネがまだ小学生の時のことだった。

 学校の帰りに友達と別れ、一人家に帰っている時、

「……」

 小さな声で誰かに呼び止められたような気がして、立ち止まって周りを見渡す。

 人はだれもいなかったが、電柱のそばに小さな段ボール箱が置かれていた。

「?」

 近くに寄ってみると、段ボール箱の中では底にタオル地のものが敷かれていて、その中で小さな何か黒いものが丸くなっていた。

 そっとその丸い生き物にふれると「ナァ~」と、か細い鳴き声を上げながら目をリネの方に向ける。

 子猫がリネの方を見てきて、驚いて手を引っ込めたが、何もしない子猫の様子を見て今度は耳のあたりをさすった。

「ナァ~ォ」

 あくびのような鳴き声を上げながらされるがままになる子猫。

 朝、学校へ行く時にはこの段ボールはなかった。昼間に置かれたのだろう。

 しばらく撫でていたが、リネはその猫を連れて帰ることはできないと考えていたので、そっとその場を立ち去る。


 ごめんね。


 心の中で何度もつぶやきながら。

 昔からペットを飼いたいと親におねだりをしていたが、家では飼えないとのことで何度も断られていた。

 なので今回もこの猫を飼いたいと言っても、だめだと言われると思い、リネはつれて帰ることはあきらめていた。


 それから。

 朝は皆と一緒に登校しているので、下校時に一人で帰る時には、こっそりと給食の残りのパンをあげたり、耳や体を撫でたり、学校であった出来事を子猫に話しかけたりしていた。

 時々、箱の中に別の餌と思われるものの食べカスがあったので、リネ以外にも餌をあげている人がいたのだろう。


 1ヶ月ほど過ぎて、梅雨の季節。

 そんな雨の降る日でも、リネは子猫に挨拶はかかせなかった。

 段々と返事と動きが鈍くなる子猫に気づきながら……


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