003
「次はウィンドウショッピング……ホント健康的なカップルだよねぇ。二人は」
「健康的……なんだかその言われ方はヤだなぁ……」
いつものようにオベントタイムを二人で向かい合って食べている。
「はいはい。わかってるわよ。そういうのでも楽しいんでしょ?」
「というよりも、初めてすぎて何をしていいのかわからないって感じなのかな?」
二人とも初めて同士のカップルで、本などの知識があるとはいえ、手探り状態なのでどこかギクシャクしてしまう。
「そういえば、リネから『告白された~』とか『今日はこんな話をした~』という話は毎日にのように聞いてるけど、なんて言われて告白されたの?」
「初めて見たときから気になっていて好きになりました。……みたいな感じかな」
告白シーンは二人ともどこか落ち着かない状態で、もし周りで見ていた人がいたのなら、それは笑いを誘う風景あったろうが、リネはあえてそこは話さず要約したものを伝えた。
「初めてって、カレは後輩だったよね」
「うん。1学年下だね」
「ということは、あの朝礼での受賞の時かな? 初めて見たっていうのは」
リネはブロッコリーを口に運びながら、言葉につられて視線を後ろに向ける。
そこには一枚の額縁に納められた絵が立てかけられていた。
「まさか、美術の授業で書いた絵がコンクールで入賞するとはねぇ」
「私はアレしか描けないから、おだてられても嬉しくはないんだけど」
それは、椅子の上で丸くなる小さな子猫の絵だった。
淡い毛布にくるまりながら、気持ちよさそうに寝息をたてていた。
その絵の縁にはリネの名前と受賞したコンクールの名前が書かれていた。
「猫が描けるなら他の動物もできそうなのにね。私もあの絵を見てると無性に撫でたくなるし」
「アレは特別だから……」
じっとその絵を眺めながら、リネは次のおかずに箸をのばす。
授業中に書いた猫の絵を先生が目を付けてコンクールに提出したら入賞した。
優秀賞などではないが、そのコンクールで賞をもらったのが学校でリネだけだったので、朝礼で壇上に立って校長から一言もらうという事態になってしまった。
それから少ししてリネは、彼から告白をされたのであった。
「やっぱり、あの絵が好きで描いた人が気になりながら本人を見ているうちに好きになった……って感じだったのかな?」
「ん~。でも、色んな話をしているけど、あの絵の話になった事がないんだよね」
水筒に手を伸ばしお茶を注ぐリネ。
「真っ先に話題にしそうなものなのにね、不思議だね」
「私からするような話題じゃないしね」
自慢するような感じになるし、また別の理由からもリネは積極的にあの絵の話題はしないようにしている。
それは彼氏に対しても同じだった。
「さて、午後イチの授業って何だっけ?」
空になった弁当を片づけながら時計に目を向ける。昼休みがそろそろ終わる丁度良い頃合いとなっていた。
「次は現国だったかな?」
「食後にそれってまたよく眠れそうな教科だなぁ~」
古典よりマシだけどね。と付け足す。リネもそれには小さくうなずいた。
リネも弁当を片づけ食後のお茶を喉に流し込む。
「居眠りしていると先生に当てられるよ?」
「わかってるって、頑張って起きるように……努力はする」
決意を固めたその顔はすでに眠たそうだった。
「だめです!」
連れてこられた場所で抱えていたボクを見せた時、目の前の女性の第一声。
「おうちでは飼えません! 元いた場所にもどしてきなさい!」
怒鳴ったせいか、その言葉のせいなのか、ぎゅっとボクを抱きしめながら言葉にならない言葉をあげながら泣き出した。
ボクはオロオロしながら交互に顔を見ることしかできなかった。
怒鳴り声を上げる。泣き止まない声。そんな二人に何もできないボク。
そのあと色々と話をした後、ボクは部屋へ連れられ一緒に寝ることになった。
もう一人で寝ることはないのだろうか。
もう一人で冷たい風に当たることはないのだろうか。
そう考えると、ボクは嬉しくなって眠る子供の横で小さな声で鳴き声を上げた。