001
思い出して浮かび上がる記憶。
肌をそっとなでていく冷たく緩やかな風と、暗い空に浮かび上がる大きくて丸い輝くものが照らす静かな世界。
頬をなぞる風は撫でられているようで少しだけくすぐったいがどこか心地よく、しかし全身を包み込む冷たい風は体を越えて心を締め付るようだった。
薄暗い所にいるボクを心配するかのように世界を明るく照らすそれは心優しく、しかし外の静寂がボクの孤独さを一層際立たせて心が締め付けられるようだった。
まだ今は寒くなる時期ではないとはいえ、自分の身を守るものも周りにはなく、長く生きられるとは到底思えないこの状況。
ボクはだた死に向かって進むだけの存在なのだろうと感じていた。
勢いよく教室のカーテンを開ける。
白いカーテン越しからでも感じていた陽の光を直接全身で浴びる。ガラス越しでも9月を過ぎた太陽はまだまだ大きく、精力的に活動をしていた。
「夏休みも終わったのにまだまだ暑くなりそうだねぇ~」
ピンクの弁当包みを机の上に置いて、2つの机を合わせながらもう一人を見る。
「そう思ってるなら、こんな窓側の席でお弁当広げなければいいのに……」
2つの机を繋げる作業の邪魔にならないように、そっと椅子を移動させながら気だるそうに答えた。
「何を言ってるの! お日様を浴びながらのオベントタイムが楽しんじゃない!」
「……うん。あんたがそう言うのは毎度のことなんだけどね」
私も嫌いじゃないし。
小声で付け足しつつ、そっと空を見上げる。
薄い雲が散らばるが大きな太陽を隠すほどでもない、それは心地よいほどの晴天だった。
二人は合わせた机に弁当を広げて昼食を開始する。
「そういえば、昨日のあのドラマ見た?」
「見た見た。あそこの……」
いつもの何気ない会話をしながら二人の箸は進む。
「ところで、リネ。彼氏とは食べないの?」
おかずも半分ほどなくなったあたりで会話を切り替えた。
「ん? ん~……そんな話はしないかなぁ」
ミートボールを口に入れながら、彼との会話を思い出すように答える。
今年の1学期の少し前に初めて恋人ができた。
その彼氏は、リネの後輩にあたる1年生で彼の方から告白をしてきて今に至る。
それから2ヶ月と少しが経ったのだけれども、
「したことと言えば夏休みに映画に行ったぐらいかな? 学校がある時は、用事がなければ二人で帰ってるけどね」
この程度なので、周りからから見ると
「それって付き合ってると言うのかな……」
と疑問に思われる程度の関係であったりする。
「あ~、でも……夏休みも終わって次は文化祭だよね?」
リネはペットボトルのお茶に手を伸ばし、教室後ろの隅に掛けられたカレンダーを確認する。
文化祭のある日付にはピンク色で花丸が書かれていた。
「そだね~」
「じゃあ一緒に帰るのもできなくなるかなぁ」
ゆっくりとキャップをはずしながら少し不安げな顔をするリネ。
「……はぁ? あなた、何時代の人なのよ!」
「え?」
「え? じゃない! 今はスマホもあるでしょうがっ!」
机の上にある黒を主とした中に赤いラインが印象的なスマホをトントンと叩く。
「そんなの、待ち合わせして一緒に帰ればいいでしょうに!」
「でも、放課後残って作業が長引いたら待たせるの悪いじゃない?」
「だぁ! かぁ! らぁ!」
今にも机をひっくり返しそうな勢いで縁をつかむ彼女をリネは必死でなだめる。
「そこで引くの? 彼女なら待たせなさい! 理由なんて『夜道が怖いから一緒に帰ろ?』とかでも何でもいいじゃない!」
「強引な……以前に、そんな日が沈むほど残ることなんてあるの?」
少し冷静になった彼女は手を離して席に着いたが、リネの言葉に再度机を叩く。
「口実なんだから何でもいいの! てかどんな理由でも彼女のお願いなんだから、黙ってうなずくのが彼氏の役目でしょうがっ!」
「ムチャクチャだね……」
そんな一方的な彼氏彼女話をしながら楽しいオベントタイムは終わり、また退屈な午後の授業が始まるのだった。




