エピソード 0 終臨への招待
1999年8月。妃優奈は夢のように消えた。母親の生まれ故郷だという、あの島で──
あの夏の日から、俺たちは確実に8年分の時を刻んできたはずだった。
なのに、俺はいまだにあの島での記憶から抜け出せずにいる。
俺たちはまだ11歳だった。だから、彼女に対して特別な思いがあった訳でもない。むしろ妃は、痩せっぽちでおとなしい、地味な少女だったので、正直興味はなかった。
だけど、忘れられないのだ。今でも目を瞑ると昨日の事のように思い出す。妃がいなくなる前の、最後の笑顔と言葉が。
「麻生くん、ごめんね。大好きだったよ。」───
────
「おい、麻生!麻生ってばっ!」
「‥何だよ?」
「何だよじゃねーよ、お前この授業単位やべーんだろ?寝てる場合かよ!今から小テストやるってよ。」
隣に座っている和泉慧に乱暴に肩を揺すられ起こされた。
忘れていたが、今は大学の講義中だったようだ。
斜め前に座る、宮瀬華奈子がクスクスと笑いながら振り返る。
「しょうがないな。宗祐、どうせ勉強してないんでしょ?見せてあげよっか?」
「ああ。悪いな。よろしく!」
宮瀬の顔を見ることなく返事を返した。
──授業が終わり、俺たちは大学のカフェで一服していた。
「宮瀬、本当に麻生一筋だよな〜。そろそろ答えてあげてもいいんじゃねーの?」
慧と宮瀬とは、小学校以来の付き合いだ。
あの島に行ったメンバーの中で、同じ大学に来ているのは自分を入れて三人だった。
あとの二人──羽柴秀幸と相原弥生は、それぞれ別の大学に通っている。
「なあ、さっきから俺の話聞いてないだろ?」
「ん─?お前が宮瀬の事好きなのは、よくわかってるよ。俺の事はほっといて好きにやってくれよ。」
「麻生──。じゃあお前が宮瀬にはっきり言ってくれよ。そしたら‥」
「あっ宗祐〜っ!和泉君も〜。」