その8 「……ああ……ッ!」 「な、なによ? なんとか言いなさいよ」 「姫様の匂いだ~ぁっ!」 「ちょ、まっ、嗅ぐな、ばかメイドぉッ!」 「だって、ずっと我慢していたのですよぉ、姫様の、
「ふははははははーッ! よくぞここまで辿り着いたな、姫様よ! たったひとりでここまで来るとは、なかなかの度胸! この私と対峙してもなお、怯みもしないとは! 気に入ったぞ、姫様よっ!」
「………………あんた、なにやってんの?」
不思議な夢を見てから、数日経ったある日のことだ。
姫が部屋に戻ると、そこには女性使用人がいた。
そのメイドさんが声を荒げた。
「ちょっとちょっと~ぉッ! も~、姫様ぁ、ノリ悪いですよ~ぉッ?」
「いや、知らんし。てか……」
姫は、はぁっ、と嘆息をした。
「たどり着くもなにも、ここ、あたしの部屋だし」
「違いますでしょぉぉぉ姫様ぁッ! そこは……『ふざけるなッ! お前を倒して、世界に平和を取り戻すッ!』……でしょぉぉがぁぁッ!」
「だから、知らんてば。なんでそんな無駄に演技力あんのよ、あんた。メイドのくせに」
「くっくっく……どうだ、私と組まぬか? 私と組めば、世界の半分は姫様にくれてやろう? ともに世界を掌握し、愚かな人間どもを従えようではないか! ふははははははーッ!」
「うっさ。声デカっ。つぅか、要らないし。だいたい、なんであんたと世界をはんぶんこせにゃならんのよ? てか、いつからあんた世界を掌握出来るほどになったの?」
「……我が名は大魔王デスメイド……ッ!」
「答えになってないし」
「あっ、もしかして! ……大魔王メイドデス……ッ! の方が、姫様の好み?」
「なんでもかんでもツッコむと思わないでね」
「…………」
「…………はぁ」
またもや姫は深くため息をついた。
あせる メイドさん!
「……ふ、ふはっ、……ふははははーッ! 言ったであろう! 私は必ず姫様の前に再び現れるだろぉと! さぁ! そこを退くがいいッ! ――お掃除の時間だーぁッ!」
「あー、はいはい、邪魔ですよねぇ。あたしゃ、あっち行ってますよ~ぉだ」
姫は奥に消えようとするが、メイドがそれを遮った。
「ちょいちょいちょいちょーい! ……らしくない! らしくないですよぉ姫様ーぁッ!」
「え、なにが?」
「姫様からツッコミを取ったら、ただの残念縦ロールじゃないですかぁあああッ!」
「……あんた、ケンカ売ってる?」
「ヤツですねッ! あの黒ぶち野郎ぅッ! あいつが姫様に変なこと言ったんですよねッ!」
「ちょ……、なに考えてんの、あんた……?」
やばいぞ!
メイドの めが まぢだ!
「乳臭いガキのくせに調子に乗りやがってぇッ! あの○○野郎ッ! はらわたをえぐり出してやろぉかーぁッ!」
「……おーい、そのへんにしておきなさいよー……ねぇ、聞いてんのぉ?」
「姫様を弄んで良いのは、このワタクシだけなのにぃぃぃッ!」
「いや、誰でもないし。確実にあんたじゃないし」
しかし ひめは おもった!
……まぁ、しいて言うなら、あの、その、ゆっ、勇者様だけ、かな……って、……きゃっ。
「はッ! 今、ときめき電波を受信しましたぞ! ……どこだ? ここか! ここらへんかッ?」
「いい。受信しなくて、いいってば、もう……って、人のスカートをめくるなッ!」
「はっ! ワタクシとしたことがっ」
「……てかさぁ、あんた、さっきから、なんなの? 何がしたいの?」
「勇者と大魔王ごっこですね」
メイドの ひとみが きらりと ひかる!
「え……、なにそれ、ヤダ……」
やった!
ひめは ドンびきだ!
だが、しかし。
メイドの こうげき!
「ね~ぇえ~ぇ、ひ~ぃめ~ぇさ~ぁま~ぁ! やぁろぉうよ~ぉ、勇者と大魔王ごっこ、を~ぉ!」
「ちょ、やめ……っ、引っ付いて来るなぁ!」
「私、大魔王するから~ぁ、ね~ぇ、いいでしょ~ぉ?」
「よくないし……、てか、駄々っ子かッ!」
「ひ~ぃめ~ぇさ~ぁま~ぁ、勇者やってよ~ぉ、なんつーの、こう……、一心不乱に脇目も振らず死に物狂いに目の色変えてなりふり構わずただひたすらに――、逃げ出そうとする勇者、やってよ~ぉ!」
「そんな勇者イヤだよ!」
「――ふははは! しかし! 大魔王からは逃げられないッ!」
「あんた、それ、言いたいだけでしょうがッ!」
「八回失敗したら次のターンで会心出るから~ぁ!」
「知らんがなッ!」
「姫様のぉ、あ~んな勇者な所も、こ~んな勇者っぽい部分も、そ~んな勇者としての発展途上な果実が、見てみたいの~ぉ!」
「どんな勇者だよッ、てかそれ、勇者のどこだよーッ!?」
「ね~ぇ、勇者やってよ~ぉ! いつもみたいに~ぃ!」
「てゆーか、一度もやったことないよーーーぉッ!」
ひめの さけびが こだまする!
つづく!